2016 Fiscal Year Research-status Report
野上弥生子『台湾』及び台湾関連日本近代文学の史料的・文学的価値に関する複層的研究
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16K02426
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Research Institution | Higashiosaka College |
Principal Investigator |
渡邊 ルリ 東大阪大学, 公私立大学の部局等, 教授 (90263417)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 野上彌生子 / 台湾 / 1935年 / 原住民族知識人 / 始政40周年記念台湾博覧會 / 花蓮 / 大武 / 台南 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、野上弥生子『台湾』を視座として、1935年当時の台湾の原住民雇用情況、教育情況、伝統文化保存、経済生活の変化等、統治政策及び宣撫政策の根幹について調査し、その史料的価値と文学的価値の評価を目指すものである。 初年度にあたる平成28年度は、計画に従い、第一に1935年「始政40周年念記念博覧会及び記念事業」の関連文献を中心に、戦前の台湾統治政策・「理蕃」関連の文献を、国立国会図書館・台湾協会及び台北の台湾国家図書館・台湾大学図書館・台湾原住民博物館等で収集した。花蓮における博覧会事業に関しては、『台湾』に記載された「原住民舞踊と歌謡の記録」に関する史料を見いだし、考証を行った。 第二に、野上が面会した花蓮の李基明氏の次男李文成氏、大武の嘉茂君子氏の長男許幸雄氏(桃園在住)への聞き取り調査を行い、李文成氏より基明氏に関する文章を、許幸雄氏より自身が作成した大武の市街地図及び解説文を得た。両者に関する新たな史料については内容の確認を求め、聞き取り調査及び文献については発表の許可を得た。李基明氏と嘉茂君子氏は、日本統治下に日本高等教育を受け、公学校で自身の部族の教育に従事した原住民族知識人である。その原住民側から語られた人間像を、『台湾』の記述と比較対照することによって、日本人作家の視点の偏向を検証すると共に、「文学」としてその立場や内面がどこまで描出されているかを読解している。 第三に、台南市立図書館での調査では、嘉茂君子氏関連の人物が記載された史料、さらに弥生子が台南で再会した明治女学校時代の留学生呉笑に関する史料を発見した。 上記の調査から、弥生子の原住民観と思想的な立ち位置を探り、弥生子の台湾視察に同行した官吏側の意図を『台湾時報』の記事より読解した上で、特に花蓮についての調査をまとめ、「野上弥生子『台湾』における花蓮」として論文を完成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高齢である花蓮の李文成氏(76歳)と桃園の許幸雄氏(80歳)に聞き取り調査ができたこと、野上が花蓮で得て『台湾』に記載した「原住民舞踊と歌謡」のプログラムが、史料によって裏付けでき、さらに新たな史料を発見したこと等、概ね計画に沿った進捗状況である。 だが、新たに入手した資料について、裏付けが困難なものがある。例えば、許幸雄氏より1935年当時の大武小学校・公学校の見取り図と大武市街地図(共に手書き)を得たが、国内外の図書館・資料館・古書店に戦前の大武市街地図が見いだせず、まだ裏付けができない状況にある。また、野上の台湾視察に同行し『臺灣時報』に手記を掲載した官吏について、職員録等による確認が難航している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、引き続き文献収集を行い、現地調査を埔里・霧社・阿里山・台東県を中心に行う。『台湾』中、「阿里山登山」「霧社での見聞と霧社事件に関する聞書」のテーマについて、現地調査と史料分析に取り組む。 霧社事件5年後の野上の霧社訪問の記述に関して、霧社事件の証言資料を整理した上で、野上の得た情報の分析と訪問地点の確認を行い、日本側の関連作品についても読解比較する。一方「始政40周年記念博覧会」の時期、国立公園指定に向け協議中であった阿里山の登山について、観光奨励の実態と野上の見聞を検証する。 野上弥生子『台湾』における1935年の台湾について、「大武」と「霧社」に関する研究発表と論文作成を行う。
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Causes of Carryover |
最終年度に、1935年の台湾と野上弥生子に関する書籍を上梓する予定であり、その出版費用を科研費より支出するため、次年度使用額が生じている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度も引き続き、国内と台湾における文献収集・現地調査を行い、書籍費・旅費・通訳謝礼等に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)