2017 Fiscal Year Research-status Report
19世紀後半から世紀転換期の文学表象における女性労働とネットワーク形成
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16K02441
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
市川 千恵子 茨城大学, 人文社会科学部, 教授 (10372822)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | マーガレット・ハークネス / エセル・カーニー・ホールズワース / 女性労働 / ストライキ / ランカシャー |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度はマーガレット・ハークネスのスラム・フィクションにおける最下層の人々の雇用問題を中心に、労働の表象を検証した。さらに労働者階級出身の作家エセル・カーニー・ホールズワースの小説の基礎的読解の他に、サルフォードのWorking Class Movement Libraryにて社会主義雑誌の『ウーマン・ワーカー誌』に寄稿したホールズワースの論説を調査した。 ハークネス研究の成果としては、日本ギャスケル協会大会シンポジウム「群衆との対峙――ヴィクトリア朝の小説における都市の風景」において、「傍観者から参加者へ――女性・暴動・ストライキ」と題した発表を行った。この発表では、19世紀後半の失業問題とストライキの文学表象と女性の関与の様相をギャスケルとハークネスの小説から検討した。また、その準備としての9月の大英図書館でのリサーチでは、希少なハークネスのGoerge Eastmont (1905) を読むことができた。1889年のロンドン港湾ストライキの史実を著者がいかにフィクションのなかで個人的物語と国家の欲望を交渉させるのか、労働組合運動、中流階級の立場、宗教家の役割を中心軸に検証し、発表でもその考察の一部を披露することができた。 ハークネスはインタビューを介し、女性労働の実情を雑誌媒体に発表したが、そのコミュニケーション戦略とネットワーク形成の様相は、ホールズワースのジャーナリストとしての仕事にも見出される。『ウーマン・ワーカー誌』をサルフォードの上記図書館にて閲読した結果、ホールズワースが北部女性作家の先達であるブロンテ姉妹からの影響を強く意識した論説を執筆していたことが判明した。ホールズワースのHelen of Four Gates (1917) にみられるエミリ・ブロンテの影響を検証し、論文「増幅する愛と憎しみの物語――『嵐が丘』、『フォー・ゲイツのヘレン』、シネマ」としてまとめることができた。出版は年度末を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マーガレット・ハークネスとエセル・カーニー・ホールズワースというマイナーな作家の著作をエリザベス・ギャスケルやブロンテ姉妹による正典的作品とともに検証することにより、女性作家の系譜を広く検証することにつながった。また、ハークネスの作品では周縁的な存在でありながらも、自ら政治的声を挙げる女性労働者が描かれ、さらにホールズワースの小説では、その娘の世代にあたる労働者女性が具体的な行動に移すように、時代の規範的女性像への抵抗と刷新の様相を辿ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の前半は国際学会での発表の準備を、そして後半はハークネス研究の成果を論文化する予定である。まず、7月26~28日にカナダで開催されるThe Body and the Page in Victorian Culture: An International Conferenceにて “Anger and Hunger: A Body Politic of Working-Class Women in Margaret Harkness’s Slum Fiction”と題する発表が採択されている。この発表では、ハークネスが労働者女性のインタビューを雑誌 British Weeklyに連載し、後にToilers in London (1889) として刊行した著作において、女性労働者の声をいかに提示するのかを、19世紀中葉のHenry Mayhewによる London Labour and the London Poor (1849-50)での感傷的な表象と比較しながら検証する。さらに未完の短編 “Connie” (1893)を含めたスラム・フィクションに描かれる女性労働者(特に工場労働者)に焦点をあて、男性のフェティシズム、国家・社会の欲望がいかに彼女たちの身体を交差し、同時にそうした欲望のみならず、中流階級女性の干渉にも抵抗し、自立の術を探る様相を提示する予定である。
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Research Products
(2 results)