2018 Fiscal Year Annual Research Report
Synergistic Effects of Humanism and Reformation on Early Modern English Drama
Project/Area Number |
16K02445
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
高田 茂樹 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (40135968)
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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Keywords | エリザベス朝演劇 / シェイクスピア / ヒューマニズム / 宗教改革 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度には、「崩れゆく世界の中で--シェイクスピア『ヘンリー六世』三部作--」(下)の中で、『ヘンリー六世・第二部』・『第三部』について考察した。『第二部』については、護国卿グロスターの失脚と殺害を通して、伝統的な道徳観念の危機や破綻が暗示される一方で、その首謀者の凄惨な死を通して、伝統的な理念の意義が再確認されるようでありながら、それを否定するように謀反や蜂起が続出して、理念をさらに有名無実化していくということを見た。そして、『第三部』については、王位継承権を巡る二つの王家の対立が、国全体の内乱へと発展し、人心が荒廃を極めてゆく過程を追い、その中で、全ての価値を虚構視するグロスターと、最後まで自らの理想を信じて安らかに死んでゆくヘンリー六世という、対照的な人物描写を通して、君主とさらには人間一般がどうあるべきなのかを問うたものとして作品を捉え、以降の歴史劇と悲劇に繋がるものであることを示した。 また、単著の論集の一章として発表した「〈成り上がりのカラス〉は懐古する--『冬物語』のだまし絵」の中で、この晩年作について、作家が自らの芸術を間テクスト性の多元的な広がりの中で捉えていることの例として論じた。それはまた、実人生との関わりでも言えることで、この作品には、シェイクスピアが生涯に直面した様々な出来事や挿話が鏤められ、彼が自らの経歴を総決算する趣があることにも光を当てた。こういう認識は、自身を完全に自律した存在としてよりも、間主観性に根ざした存在と捉えていることに呼応しており、それはまた、神や広く世界との関係についても認められ、自身を一人でそういう存在と向き合うものとしてよりも、むしろ、己の力を超えた超越的なものの顕現の媒体として捉えていると思われ、そのことにも、シェイクスピアが晩年に至った芸術的、宗教的な境地が感じ取れるのではないかということを論じた。
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