2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K02527
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
寺田 寅彦 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30554456)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | エミール・ゾラ / フランス人権同盟 / ドレフュス事件 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度には、フランスにおける基礎調査を進めた。従来より仏国立図書館手稿部においてゾラの生前・没後のフランス人権同盟関係者からの書簡について調査を行ってきたが、これに加えてゾラの別荘があったYvelines県の県立古文書資料室(Archives departementales des Yvelines)での調査を実施し、ゾラ没後の動産・不動産贈与と人権同盟運動との結びつきの原資料の調査を始めることができた。この調査結果から、贈与先であるパリ病院(AP-HP, Assistance publique, Hopitaux de Paris)に資料がある可能性がわかり、AP-HP資料室で未公開の原資料を多数発見した。 一方でこのゾラと人権同盟の結びつきが、ゾラの小説家・美術批評家としての活動や、ドレフュス事件での活動の中でどのような意味を持ちうるかについて分析を行った。ゾラは「真実は前進する」という信念で知られるが、その「真実」の内実が学術的に分析されたことは今まで少なかった。調査・分析により、この「真実」がフランス人権同盟運動の展開とあわせて理解される必要が、あらためて浮き彫りになった。 これらの知見の一部は論文「エミール・ゾラ、真実の美学」(東京大学総合文化研究科超域文化科学専攻『超域文化科学紀要』第21号、2016年、33頁-51頁)や口頭発表「ゾラとセザンヌ、その没後」(日仏美術学会国際シンポジウム「ゾラの美術批評を再考する」、2016年12月17日、於京都工芸繊維大学松ヶ崎キャンパス 東3号館K-101教室)に生かされたが、資料は膨大であり、この整理と分析が喫緊の課題である。同時に、もともと予定していた雑誌・新聞・書籍の調査は引き続き行われる必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の平成28年度の作業は、フランス人権同盟の人権同盟公報や関連する雑誌・新聞・書籍、さらに仏国立図書館手稿部での書簡や手稿の調査を行う予定であった。それらの資料の数は膨大であるその一方で、幸運なことにゾラの別荘があったYvelines県の県立古文書資料室(Archives departementales des Yvelines)での調査から、ゾラ没後の動産・不動産贈与と人権同盟運動との結びつきの原資料の調査を始めることができた。また、この調査結果から、贈与先であるパリ病院(AP-HP, Assistance publique, Hopitaux de Paris)に資料があることがわかり、AP-HP資料室で未公開の原資料を多数発見することができた。その資料の調査・分析が必要であることから、予定よりも作業に時間がかかっているその一方で、貴重な資料が発掘されたことは予想外の成果を得ることとなっている。全体的には本研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、前年度に発見されたパリ病院(AP-HP, Assistance publique, Hopitaux de Paris)資料室の資料整理と分析を行うと同時に、引き続き仏国立図書館手稿部や他機関で新聞なども含めた調査を進め、ゾラを取り巻く人権同盟関係者の動向を明確にする作業を進める。とりわけ、仏国立図書館手稿部に近年収められたアルフレッド・ブリュノの書簡資料を整理・調査する必要がある。アルフレッド・ブリュノはゾラの親しい友人の一人であり、ゾラ没後に発足した「エミール・ゾラの会」や、その後に設立された「エミール・ゾラ友の文学協会」の運営に深くかかわった。いまだ十分な調査がされていないこれらの会の運営実態を、副会長もしていたブリュノの書簡調査から明らかにする。そのことから、ゾラ没後の人権同盟運動の動向とゾラ作品の受容の問題の理解を深めることとなる。調査はおもにフランスで行われ、そのために可能なかぎり現地に赴き調査を行う。
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