2018 Fiscal Year Annual Research Report
Racine and the Quarrel of the Ancients and the Moderns
Project/Area Number |
16K02533
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
永盛 克也 京都大学, 文学研究科, 准教授 (10324716)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 新旧論争 / ラシーヌ / 悲劇 / 旧約聖書 / エステル記 |
Outline of Annual Research Achievements |
17 世紀フランスの文芸界において、古典古代への崇敬を旨とする立場と近代の創意を重視する立場は、批判と反発を相互に繰り返し、常に緊張関係の中にあった。本年度の研究では17世紀の詩学における「認知」の解釈に着目し,ダシエによるアリストテレス『詩学』の翻訳・注解が「新旧論争」の文脈において理解すべきものであることをコルネイユ批判に即して明らかにした。また、ラシーヌが『アンドロマック』の第2序文で古代作品の意匠を変更する必要性を主張するために引用した古代のスコリアは『イフィジェニー』の構想過程で発見したものであり、ラシーヌがオペラという新ジャンルの擁護者たちに対し権威的論証に訴えている点を明らかにした。 前年度までの研究では、1689年に上演されたラシーヌの宗教悲劇『エステル』を同時期に進行していた新旧論争および神学論争の文脈の中に位置付ける考察を行った。ポール・ロワイヤルにおいてルメートル・ド・サシを中心に進められた聖書の翻訳作業、とくに1688年に出版された『エステル記』の翻訳・註解がラシーヌにとって宗教悲劇の主題の選択の契機となったのではないか、という仮説に基づき、『エステル』の詳細なテクスト分析を行った結果、ラシーヌが『エステル記補遺』にあたる「七十人訳聖書」の追加部分に含まれる要素(神の摂理の強調)を劇の核心部で用いること、しかもそれはサシの註解で示された解釈に添うものであることが明らかになった。古典的文献とその註解をふまえ、それに忠実に従う形で創作を行う態度は「古代派」としてのラシーヌの立場を明確に示しているといえる。古代の権威である教父の著作に依拠した聖書注解が、近代の神学者の解釈に対置される構図が成立するのである。悲劇『エステル』の創作と上演を同時代の新旧論争および神学論争と関連づけて考察することによって新たな展望を得ることができた。
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Research Products
(1 results)