2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K02546
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Research Institution | University of the Sacred Heart |
Principal Investigator |
畑 浩一郎 聖心女子大学, 文学部, 准教授 (20514574)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | イマゴロジー / 19世紀フランス文学 / ロマン主義 / 旅行記 / 異郷 / 他者 / エキゾティスム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究2年目にあたる平成29年度は、より具体的な問題提起を行うべく、1821年に始まるギリシア独立戦争とフランス・ロマン主義文学との関わりを取り上げた。イスラーム国家オスマントルコの軛からの解放を求めて戦うギリシア人の姿は、フランスをはじめとした西洋諸国に強い共感を呼び起こす。その共感が駆動力となり誕生した文学作品を、ユゴーの『東方詩集』のような文学史に名を残す傑作から、現在では忘れ去られてしまった無数の群小作品にいたるまでリストアップし、その検討を行った。 また西洋における親ギリシア主義の盛り上がりに、シャトーブリアンが果たした役割についても考察を深めた。ギリシア独立戦争と文学者の関わりと言えば、とかく英国詩人バイロンばかりが着目されがちであるが、シャトーブリアンもこの問題に熱心に取り組んでいる。これまであまり知られていなかった作家のこうした活動について、いくつかの興味深い知見を得ることができた。とりわけ1825年に発表された「ギリシアに関するノート」はこれまでほとんど研究の対象とされてこなかったが、ギリシア問題に関する作家の考えを知る上で極めて重要なテクストであることが判明した。さらにこのテクストの分析を通じて、シャトーブリアンの現代ギリシアについての考えは、時代とともに大きく変化していったことがわかった。『パリからエルサレムへの旅程』(1811)では、作家はギリシアの独立にむしろ懐疑的であったが、1825年にはフランスにおける親ギリシア主義の旗手とまでなるのである。この問題に関し、2017年6月に東京大学本郷キャンパスで開催された第41回地中海学会大会で発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究が立てた三つの問題設定のうち、1) 国や地域の表象にまつわる言説にはどのような種類があるのか、と、 2) その表象の形態、目的、効果はいかなるものなのか、については、比較的順調に考察は進んでいる。他方で、3) 国や地域のイメージに関して、文学作品と社会とはどのような関係を取り結ぶのか、については、前二者と比べ、研究の進捗はやや遅れている。その理由として、問題設定の射程が極めて広大であることが判明したことが挙げられる。この問題を扱うにあたっては、これまで予定していたように、俯瞰的に文学史を眺めるといったアプローチでは困難であることがわかった。むしろ、より限定的なサンプルを見つけ、それを掘り下げることによって、いわば帰納的に問題の全貌を捉えていくという手法が有効となる。その意味では、ギリシア独立戦争とフランス・ロマン主義文学の関わりというテーマを発見できたのは大きな収穫となる。このテーマは、本研究を進めるにあたって極めて示唆に富む研究材料を提供してくれるものと期待されるからである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究最終年度にあたる平成30年度は、これまでの2年間で培われてきた研究成果をまとめていくと同時に、イマゴロジーという手法がどの程度まで文学研究において有効なのか、その射程を正確に見定めるという作業をも行っていく。具体的には、まずシャトーブリアンと親ギリシア主義の関わりについて、さらに考察を深めていく。とりわけ作家の現代ギリシアについての見方がなぜこれほど大きく変遷したのか、その理由を探ることが大きな課題となる。またもし時間的に可能であれば、もうひとつの補助線として、1840年の東方問題にまつわる詩人ラマルチーヌの考えについても検討していく。これは文学者と政治との関わりという点で、1820年代のシャトーブリアンとある種の鏡像を結ぶはずである。
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Research Products
(1 results)