2016 Fiscal Year Research-status Report
ケンペル研究の新展開 -日本とドイツの協力による総合研究
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16K02555
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
渡邉 直樹 宇都宮大学, 国際学部, 特命教授 (50167152)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ケンペル / 18世紀ヨーロッパ / 『廻国奇観』 / 大英図書館 / ラテン語のドイツ語訳 / トゥーレ / 日本史 / ルネッサンス・人文主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
ドイツ人研究者Detlef Haberland博士の協力の下、ケンペルの総合的研究を目途として2016年9月にボン大学を訪問し、博士のみならず、博士の同僚であるケンペル研究者Karl August Neuhausen 博士およびAsrid Steiner-Weber博士と意見・情報交換を行った。同時に大英図書館に存在するケンペルに係る資料を特別な許可のもとで写し取ったボン大学所蔵資料を一部閲覧することができた。ハーバーラント博士ら、ドイツ人研究者からは現在取り組んでいるケンペルのラテン語による著書『廻国奇観』(Amoenitatum exoticarum,1712)の適切かつ正確なドイツ語訳が、つまり本書の文献学的研究の観点を踏まえることがケンペル研究に新たな視点を提供するとの認識が示された。 一方、日本のケンペル研究については、わたくしの立場から、日本記述部位(『日本史』(The History of Japan,1727)中心の傾向があり、ややもすればケンペルの思想の先見性や時代史的意義、彼の全体像を見誤る可能性があるとの意見を述べた。 この意味で日本とドイツの研究者が互いに協力し、研究資料や情報・意見交換、討論等を行うことにより、ケンペルの総合的研究が可能となり、新たなケンペル像の提起やケンペルの思想構造の分析、ケンペルの著作が有する意義が明確となる。本研究は、このことを目的としていることを説明した。両者の研究協力の必要性が改めて認識できたところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ケンペルに係るドイツ人研究者として、現在Oldenburug大学東ヨーロッパ研究所教授Detlef Haberland博士に本研究への協力をお願いしたところであるが、博士はさらに協働でケンペルのラテン語による著書『廻国奇観』のドイツ語訳に取り組んでいるボン大学のKarl August Neuhausen 博士およびAsrid Steiner-Weber博士の両研究者を紹介してくれた。これら研究者と日独のケンペル研究に係り意見交換ができた。この意見交換を通じて、日独のケンペル研究には大きな乖離が存在することも認識するところとなった。つまり、ドイツにおいて、ケンペル研究は文献学的観点から記述内容の批判的検証がテーマとなっていると解釈できる。一方、日本では「鎖国論」が近代化の過程において江戸幕府の支配形態に対する重要な批判的検証の思想軸となった。それゆえ、「鎖国論」にケンペル自身が18世紀ヨーロッパの思想的展開において果たした役割よりもより多くの注目が払われ、ケンペルその人の全体像を見えにくくしてしまった。換言すれば、「鎖国論」が、ケンペル研究よりも日本の近代化の展開において勤皇・佐幕派や開国・鎖国派それぞれの思想基盤として利用された。日独間のケンペル研究の乖離の原因の多くは、この点に帰せられるように思われる。 したがって、ドイツ人研究者が日本のケンペル研究に関心、あるいはむしろ疑問を抱く理由は、なぜケンペル研究が行われているのか、ケンペル研究にいかなる課題が設定されているのか等の根本的問題にあると考えられる。 ハーバーラント博士は、日本の研究協力者であるところの岡野に対してすでに、この課題を提起し、岡野に日本におけるケンペル研究の文献書誌のリストアップを依頼している。この意味で、本研究の本質的意義が、ドイツ人研究者との議論において明確となったことは一年目の大きな成果といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在Oldenburug大学東ヨーロッパ研究所教授Detlef Haberland博士を日本に招待し、日本のケンペル研究者と意見交換する機会を得るべく、JSPSの短期招聘事業に応募しているところである。博士とともにケンペル全集6巻の編集者である前九州大学教授Wolfganng Michel博士や同様に『ケンペルと徳川綱吉』の著書がある大妻女子大学名誉教授Beatrice M.Bodart-Bailey博士との意見交換についても期待している。 ハーバーラント博士の招聘が実現した折りには、博士と「洋学史学会」におけるケンペル研究者、日欧交渉史の研究者あるいは日本近代史の研究者との意見交換やワークショップを実現するべく計画しているところである。 このことにより、第一にケンペル研究の意義や研究対象の価値評価をめぐり両国研究者の違いが明確になるとともに、双方にとって大変興味深い根源的課題が提示されるものになると思われる。ドイツ人研究者、特にハーバーラント博士らにとっての課題は、ギリシア・ローマ時代の古典に関するケンペルの解釈と彼の著作、とりわけ『廻国奇観』におけるラテン語の表記および内容との関連である。ケンペルのラテン語表記を詳細に分析し、古典の文籍との比較を通じてケンペル思想の先見性を洞察することに、博士らドイツ人研究者の主たる目的があるように見える。日本人研究者による日本に係る著作中心の分析とはおよそ異なる点に、この乖離をいかに総合するかが、本研究課題であることが改めて認識されたところである。
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Causes of Carryover |
本研究に係る日本関係の文献資料(書籍等)の調査に時間を要し、年度内に入手手続きが完了しなかったためである。当該資料は、貴重書が多く古書の検索と発注、あるいは国内の図書館等への複写依頼の手続きが必要であったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度に入手できなかった資料等の費用として使用するものである。
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Research Products
(2 results)