2017 Fiscal Year Research-status Report
20世紀スペインの小説と「社会の危機」:F.アヤラ作品における文学と社会学の交錯
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16K02570
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
丸田 千花子 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 准教授 (00548414)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | スペイン文学 / 小説 / 亡命知識人 / 文学と社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、研究資料の収集と整理を行い、1940年代と50年代にアヤラが著した社会思想の著作と、小説2篇(『サルの物語』(1952)と『犬死』(1956))の関連性を分析し、国際学会と招待講演において成果発表を行った。 1.文献調査と資料収集はスペインと米国で行った。カリフォルニア大学サンディエゴ校図書館内のサウスウォース・コレクションでは他の亡命知識人とともにアヤラがアルゼンチンで創刊した雑誌を閲覧し、本年度以降の研究に係るスペイン内戦と亡命知識人の資料を入手した。 2.平成29年4月にはアヤラの翻訳理論についてケンタッキー外国文学学会(KFLC)で発表を行った。 3.平成29年11月には1950年代の小説と社会思想の著作との相互関係について米国現代語学文学中西部学会にて発表した。小説でアヤラはヨーロッパ文芸でみられる伝統的な動物シンボルを用いて作中人物の行動を動物化し、大衆と彼らに迎合する知識人らエリート層の道徳的退廃を批判すると共に、人間の条件とは何かを問う。知識人の道徳的退廃と人間の条件について、アヤラは1940年代と1950年代の著作で論じており、特に後者は独のマックス・シェラーやアルゼンチンのフランシスコ・ロメロらの哲学的人間学の構想の影響を受けている。このようにアヤラの社会思想と小説の創作は密接に関係していることがわかった。 4.平成30年2月にはアラバマ大学現代語・古典語文学部スペイン語学科・英米文学部の招待により講演を行った。この招待講演では、平成28年と平成29年の研究成果をもとに、アヤラが考えるところの亡命、亡命作家と亡命文学について発表した。講演準備のため内戦と亡命をテーマとした作品を調査中に、アヤラと同郷であり米国に亡命した詩人ミゲル・ピサロの戯曲『祖国を追われた者たちの宗教劇』の重要性にふれ、2018年3月のアメリカ比較文学学会にて研究発表をした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画通り、研究内容についてはおおむね目標を達成している。研究成果は学会や招待講演で発表しているが、論文投稿などの形での発表がやや遅れているため早急に対応したい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は研究計画に記した通り、第二次大戦後の社会において、技術の進歩と経済発展がもたらした新しい価値観の利便性と弊害について、アヤラは1950年から60年にかけての著作で論じている。本研究では、その論考が1960年代の小説にどのように織り込まれているかを明らかにする。これらの社会思想の著作では、アヤラは大戦後から1950年代にかけてのスペイン社会の変質を世界的にみられる社会変化と関連させて考察している。こうした社会思想を小説に反映するにあたり、アヤラはどのような小説手法を用いているかを分析する。また研究と平行して年度の前半にはこれまでの研究の自己点検を行い、不足部分があれば前半にそれを補い、資料収集のためにスペインとアメリカに出張する。年度後半には研究成果を学会で発表、もしくは論文としてまとめる。
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Research Products
(4 results)