2018 Fiscal Year Research-status Report
20世紀スペインの小説と「社会の危機」:F.アヤラ作品における文学と社会学の交錯
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16K02570
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
丸田 千花子 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 准教授 (00548414)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | スペイン文学 / 小説 / 亡命知識人 / 文学と社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は文学と社会学が融合する場としての小説の研究である。社会学者・文学者であるF.アヤラの作品を研究対象とし、社会学の著作と小説の相関関係を明らかにすることを目的としている。 平成30年度は米国において研究資料の収集と整理を行い、研究成果を2件の論文としてまとめた。1件目の論文は平成30年2月にアラバマ大学で行った招待講演の内容に、平成29年度と平成30年度の研究成果を追加してまとめたものであり、紀要に投稿した。投稿論文では1940年代と50年代のアヤラの小説のテーマがスペイン固有のものから普遍的なものに発展していった理由を、アヤラが執筆した1949年の論文内容から解き明かした。アヤラはこの論文において、第二次世界大戦後、国際社会がフランコ独裁政権の存続を認めたことにより独裁政権の崩壊を期待していた亡命知識人は思考の方向転換をする必要があること、またより広い視野をもってスペイン以外の国々が抱える問題に意識を向けて、文化活動をすべきだと主張している。投稿論文ではアヤラが論文でおこなった主張を自ら小説の場で実践してみせたことを指摘した。2件目の論文は平成28年度の研究成果として学会で口頭発表した内容の一部に新たな知見を加えて発展させたものである。紀要への投稿を準備しており、平成31年度中に出版される。また平成30年度は『コップの底』(1962)と関連する社会学の著作を分析した。結果、アヤラは社会学的な視点を小説に取り入れ、抽象的な概念を具体的な形で小説で示していることが明らかになり、引き続き1960年代の小説においても、社会学の著作との強い相関関係があることを確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画通り、研究内容はおおむね目標を達成している。平成28年度と平成29年度の研究成果である学会の口頭発表の内容に、さらに新たな知見を加えて、活字化することができた。平成30年度の研究計画についてはほぼ実行できたものの、成果発表が遅れているため、平成31年度前期に対応したい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度は研究計画通りに以下の通りに進める。平成31年度前期は、平成30年度の研究成果を論文としてまとめるのと平行して、アヤラの1960年代半ば以降の社会学の著作の分析を行い、アヤラのスペイン語文化圏に対する考えを明らかにする。その上で、これらの著作で示された思想が60年代や70年代に創作した小説に与えた影響について考察する。主な資料の収集は終了しているが、研究成果の発表準備に必要となる副次的資料の収集を米国コロンビア大学図書館にて行う。平成31年度後期は、研究成果を論文として刊行することをめざす。
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Research Products
(1 results)