2018 Fiscal Year Research-status Report
創作システムとしての翻訳ーー複数言語と関わる現代ドイツ語作家に即して
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16K02572
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Research Institution | Tsuda University |
Principal Investigator |
新本 史斉 津田塾大学, 学芸学部, 教授 (80262088)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 翻訳 / 越境文学 / 多言語 / ドイツ語文学 / ハンガリー / スイス |
Outline of Annual Research Achievements |
現代越境文学を代表する作家イルマ・ラクーザ、多和田葉子、および、ドイツ語文学研究者山口裕之、新本史斉の4名による朗読・講演会『海、想起のパサージュ』(2018年4月11日、東京外国語大学)を行い、現代ヨーロッパにおける<越境>のテーマについて討論を行った。さらにラクーザ、多和田、新本の3名による朗読・講演会『もっと、海を』(2018年4月11日、ゲーテ・インスティトゥート)を行い、複数言語による執筆の創造性をめぐって討議した。 『スイス7社による新刊書籍紹介翻訳ワークショップ』(2018年5月21日、津田塾大学千駄ヶ谷キャンパス)を開催し、スイスからの出版編集者7人、日本の出版編集者18名、津田塾大学の学生12名に対して、2017-18年度のスイス新刊書籍の翻訳、解説を行い、独、仏、日本語による討論を行った。当研究代表者は企画、司会に加え、現代ハンガリー文学翻訳者であり自身作家でもあるクリスティーナ・ヴィラーグの長編小説"Eine dieser Naechte"(『こんな夜々の一夜は』)および、ソーニャ・ダノウスキの児童文学作品"Smon Smon"(『スモンスモン』)について発表を行った 2018年6月30日にスイス文学会において、研究発表「自伝と虚構 - イルマ・ラクーザ『もっと、海を』を翻訳論から読み解く」を行った。 『津田塾大学紀要第51巻』に論文「反復と差異、あるいは、国境を越えない越境文学―テレージア・モーラ『奇妙なマテリアル』試論―」を執筆し、ハンガリーのドイツ語マイノリティに出自を持つ多言語作家モーラの初期短編小説集における<反復>と<越境>のモチーフについて論じた。 2019年6月開催予定の日本独文学会でのシンポジウム「創作システムとしての翻訳」の全体コンセプトを定め、他の登壇者4名とともに準備作業を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年4月のラクーザ、多和田を迎えての二度の朗読・討論会においては、複数言語使用と創作の関係において、両作家の共通点と差異を明確にしつつ、数多くの貴重な知見を得ることができた。 続いて取り組んだ5月のスイス新刊書翻訳ワークショップにおいては、ラクーザに続く世代のハンガリー出身のドイツ語作家であるC・ヴィラーグの最新刊を論じることで、現代ハンガリー文学からの翻訳とドイツ語による創作の創造的関係について、異なった角度からの知見を得ることができた。 さらに、津田塾大学紀要に執筆した論文においては、最も若い世代に属するハンガリー語・ドイツ語バイリンガル作家であるモーラにおける幼少期からの複数言語使用経験と執筆方法の関係について考察することで、ラクーザともヴィラーグともまた異なる、あらたな翻訳と創作の関係を明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年6月の日本独文学会にて開催されるシンポジウム「創作システムとしての翻訳」において、3人のハンガリー語・ドイツ語間で書く<翻訳者=作家>I・ラクーザ、C・ヴィラーグ、T・モーラを取り上げ、三者三様の翻訳と創作の創造的関係を明らかにするとともに、この40年間に形作られてきた一つの新たな文学的伝統としてのハンガリー語・ドイツ語バイリンガル作家について論じる予定である。また、他のシンポジウム発表者の取り上げる独・英・ポーランド語間、独・ルーマニア語間、日独語間における翻訳・創作問題との対話を通じて、本研究テーマの射程をさらに拡大させることができると考えている。本シンポジウムの成果は日本独文学会叢書の電子版叢書として2020年度に公開予定である。 また、8月にはスイスのビール市で開催されるローベルト・ヴァルザー彫像展での公開講演(ドイツ語)において、ヴァルザー作品の翻訳が日本においてどのような創造的展開をみせているかについて報告する予定である。 本年度内に刊行予定の津田塾大学紀要においては、日本ではいまだ受容が進んでいないC・ヴィラーグの創作方法について論じる予定である。 さらに本研究プロジェクト全体から得られた知見・認識に基づき、文芸雑誌『思想』の文学特集号において、現代ドイツ語文学における越境文学の現在について論じる予定である(2019年度末刊行予定)。
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