2016 Fiscal Year Research-status Report
戦間期及びナチ時代のシュラーガーにみる、ポップ・カルチャーとしての同性愛文化研究
Project/Area Number |
16K02575
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
相原 剣 明治大学, 法学部, 兼任講師 (30726469)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | シュラーガー / 同性愛文化 / ポップ・カルチャー / 娯楽音楽 / レコード産業 / ユダヤ人問題 / 強制収容所 / 抒情詩 |
Outline of Annual Research Achievements |
戦間期及びナチ時代のシュラーガーに関して、同性愛者としてザクセンハウゼン強制収容所で殺害された歌手パウル・オモンティスを主要な分析対象として研究を遂行した。その際、現代に通じる複製可能なポピュラー音楽の起点としてのシュラーガーに関してはバウジンガー、メッツガー、ゲッツェ、ハース、シドー等、同性愛文化に関してはヒルシュフェルト、ブラント、マッケイ、ブルンナー、ケイルソン-ラウリッツ等、新旧先行研究の分析も進めた。オモンティスに関しては、ヴァイマル期に於けるレコード産業の発展やユダヤ人問題など、同性愛文化研究をポップ・カルチャー研究として遂行するにあたって重要となる諸要素を孕んだ典型的な事例であり、本研究課題の起点としての論文を執筆した。この論文は、同性愛文化、ポップ・カルチャーに対する複合的視座を新たに獲得することを目的とする本研究課題の見取り図として、今後の成果の前提となる要素を多く含んだものとなっている。 今後を見据えた成果としては、ベルリンのゲイ博物館、ウィーンのQWIEN(ゲイ/レズビアン文化歴史研究センター)というヨーロッパを代表する二大同性愛文化研究機関と継続的協力関係を構築したことが大きい。また、政治的理由によりドイツ語圏に於いてもこれまで研究が進んでいないナチ時代の大物作詞家ブルーノ・バルツに関して、ブルーノ・バルツ・アーカイブの全面的な協力を得る事もできた。 アルフレート・グリューネヴァルトに関する国内の既存資料の不足に関して、日刊新聞のアーキビストであるエッカルト・フリューが整理した多数の一次資料の収集と分析をウィーンに於いて行った。またグリューネヴァルトの未発表書簡資料等に関してQWIENの協力も得られた。また、ザクセンハウゼン、マウトハウゼン、プレッツェンゼー等の収容所・監獄施設において、収容所に於ける娯楽音楽の資料を多数得る事ができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね計画通りに順調に進んでいる。28年度の計画であった、同時代に行われた同性愛文化文学研究の分析に関しては、オモンティスに関する論文執筆に伴って基本的な分析を行うことが出来た。当時の同性愛雑誌等に関して現地調査により多数の資料が得られたので、これらに関する整理分析も逐次行っている。資料の不足していたオーストリアの状況に関しても、QWIENとの情報交換を経て順調に進展している。 シュラーガーに関しては、同時代の研究から最新の研究に至るまで、十分に基礎文献の分析を行うことが出来た。ヴァイマル期のレコード産業の歴史的経緯に関しては、個々の資料に矛盾や齟齬が多くみられるが、それらを批判的に検証し実相を明らかにする作業を進めた。抒情詩の分析に関しては、同時代のシュラーガーと抒情詩を具体的に比較研究する前段階として、同性愛文化研究を軸に現代に通じるポップ・カルチャーとして両者を結びつける外殻を整えている段階である。 当初の本年度実施計画の内、一次資料の不足からウィーンに於けるシュラーガーの展開に関する調査は若干遅れ気味となっている。しかしこれは、研究の進捗の中で関係者へのインタビュー等を通して、ナチ時代の同性愛文化及び娯楽音楽に関する研究対象として作詞家ブルーノ・バルツの調査研究が焦点化し、そちらに主軸が向いていることも大きな理由となっている。当初三年目の中心課題となる予定であったフリードリッヒ・ラッヅワイト関連の調査研究が、ブルーノ・バルツとの関係から前倒しになっており、全体としては当初の計画を若干上回る成果を出すことが出来たと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
ブルーノ・バルツは、ナチ時代における娯楽音楽・シュラーガーの最も有力な作詞家であるが、同性愛者として投獄され、時にその名を秘されて作品が発表されたという経緯から、作品自体の圧倒的な知名度と作詞家個人名の乏しい認知が激しく乖離する事例となっている。1988年の作詞家の死後10年は遺言により一切の言及が避けられた為、ドイツ国内においても研究が進まなかったが、2011年にブルーノ・バルツ・アーカイブが設立され、研究環境も整いつつある。バルツは、当時の同性愛雑誌のヌードモデルであり、同性愛解放運動の指導者であり、ナチのプロパガンダ映画に貢献した作詞家であり、同性愛者として投獄された犠牲者でもあり、特にナチ時代の娯楽音楽・シュラーガー、同性愛文化、同性愛者を取り巻く歴史的状況など、複合的・重層的な研究対象として中心的に研究を進めていく。作詞家バルツを焦点とすることで浮かび上がる、同性愛解放運動におけるフリードリッヒ・ラッヅワイトや、ナチ娯楽映画・シュラーガーにおけるツァラ・レアンダー等の関連人物・事象にも研究を広げていく。 また、当時の同性愛文化状況について、ベルリンにおけるノレンドルフ地区、パンコウ及びプレンツラウアーベルクの解放運動の拠点、ミュンヘンやウィーンの同性愛クナイペの状況等の調査を集中的に行い、歴史研究の裏付けを持ったシュラーガー研究やポップ・カルチャー研究を推進する。 グリューネヴァルトに関しては、今回得られた多数の資料の整理分析を進めながら、QWIENとの協力の中で、抒情詩及びアフォリズムを中心に、形式・韻律分析をしっかりと行いながら、同性愛文化研究へと結びつけていく。
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Causes of Carryover |
研究課題に関する国内の既存資料の少なさ故、3年間の計画において初年度の資料収集等に予算を多く割き、漸進的に予算減少の計画を当初立てていたが、基礎資料収集に関して海外研究拠点による資料提供や関係者及び当事者との直接の協力関係構築により、若干の余力を次年度に送ることが可能となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当該研究課題の遂行にあたって、非常に重要な海外調査等に関して、3年間の予算配分を当初計画よりバランスよく配分することが可能になる見通しである。この点は、当初の計画予定より諸々の事態が好転した結果である。本研究課題に関しては未踏部分も多く、現地調査や成果発表の環境構築に必要となる余力を保ちながら推進していきたいと考えている。基礎的な整理等を含め出来るだけ申請者当人が多くの作業を担うことで、より有効な使用を行っていきたい。
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