2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K02578
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
檜枝 陽一郎 立命館大学, 文学部, 教授 (40218681)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | インキュナブラ / 原活版印刷本 / オランダ / ベルギー / 印刷術 |
Outline of Annual Research Achievements |
オランダ・ベルギーにおける初期印刷本の考察を研究テーマとして、とくに1500年以前に印刷・刊行された揺籃本(インキュナブラ)の成立過程を考証した。研究の方法として、1、インキュナブラ総目録の入手、2、印刷術関連の書籍の入手、3、インキュナブラのプリントアウト作業の三つの作業を中核にして研究日程を作成した。インキュナブラとは、1500年以前に印刷された書籍を指し、グーテンベルクが印刷術を発明したのが1450年以降とされるので、およそ50年間という期間に印刷された書籍をこう呼んでいる。ただその間に印刷された書籍は膨大な数に上る。オランダ・ベルギーのインキュナブラの総数は2025点を数え、初期印刷本の研究には、まず個々のインキュナブラに番号を付した総目録が必須であった。初期印刷術の研究に不可欠の総目録は第一にキャンベルによるもので、それは1874年に刊行された(M.F.A.G.Campbell, Annales de la typographie neerlandaise au XVe siecle. La Haye 1874)。それ以外の総目録についても、およそオランダ・ベルギーの印刷術に関する限り、入手可能な目録はできるだけ収集して研究の基礎資料に充てた。 研究の過程で、オランダ・ベルギーには刊行地また刊行年、印刷業者名の記載のない初期印刷本が多数依存しているのが判明した。これらは専門的には原活版印刷本(Prototypography)と称されている。代表的なものが最初期のインキュナブラである『人類救済の鑑Speculum humanae salvationis』である。こうした原活版印刷本と印刷業者ヘラールト・レーウが当時どのような関係にあったのかがある程度明らかになった。以上のことは本邦では全く知られておらず、日本初の研究の成果であるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初期印刷本の研究途上で、原活版印刷本という予想外の事例に出くわしたために、それへの対処に少しばかり手間取った。この問題は、19世紀以来多くの研究者を悩ませ、またさまざまな学問的論争を引き起こしたテーマであり、これを論じた非常に多くの文献を19世紀にまで遡って渉猟することにやや時間をとられたのが理由である。とはいえ、この問題に関しては整理がついたので、まとめの作業をしているのが現状である。
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Strategy for Future Research Activity |
オランダ・ベルギーにおける原活版印刷本について成果をまとめた後、本研究の中核である印刷業者ヘラールト・レーウと原活版印刷本との関係を考察する。レーウの初期の出版活動とユトレヒトにおける他の印刷業者の活動とを比較し、どの程度レーウがユトレヒト、とくにユトレヒト司教区の影響を受けていたのかを考察する。つぎに動物叙事詩『狐ライナールト物語』が系譜上どのように16世紀の民衆本に継承されていくのかを考察し、廉価な文学作品がどんな理由で庶民に受容されたのか、またそこに宗教上の思惑が存在したのかを考察する予定である。
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Causes of Carryover |
今後『狐ライナールト物語の系譜』を研究する上で、その受容史あるいは中世における庶民の書籍の購買状況およびその理由などについて、広範な資料収集が必要であるため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
初期印刷業、とりわけユトレヒトを中心とした印刷業に関して資料を収集し、ついで中世における文学作品の受容について、また宗教改革時の文学作品の扱われ方について資料を収集し、必要ならばアルバイトを使ってその整理に当たらせる。
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