2019 Fiscal Year Annual Research Report
studies on early printed books in Holland and Belgium
Project/Area Number |
16K02578
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
檜枝 陽一郎 立命館大学, 文学部, 教授 (40218681)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 動物説話 / 検閲 / 反宗教改革 / 書体 |
Outline of Annual Research Achievements |
中世のオランダ・ベルギーにおける初期印刷本において、宗教改革と反宗教改革の対立が本の内容にどのような影響を与えたのかを、民衆本『狐ライナールト』および『狐ライナールトあるいは動物の審判』という二作品によって明らかにした。十六世紀に盛行した書籍の検閲は、カトリック側から行なわれたものだが、それに対してプロテスタント側の出版業者は、検閲にかからないように書籍の内容を変えたこと、それと同時に子供に読みやすいシヴィリテ書体という筆記体の書体を用いることで、新教の教義を浸透させようと意図したことが判明した。 当時出版業の一大拠点であったアントヴェルペンでは、著者と印刷業者、書籍を用いる教師の間に親密なネットワークが形成されており、そうした中で新教の教義が広められたことがわかる。他方、カトリック側はアルバ公を中心とした検閲委員会を設置して、新教色のある書籍の取締りを強化した。そうした状況下で、多くの出版業者が弾圧された。 カトリック側も、全ての書籍を弾圧するのは経済的利益の面からも得策ではなく、修正を施した書籍ならば許可しても良いのではという意見が主流になり、修正後の書籍を特認という形で流通させるようになった。修正を施したのは検閲官であり、本研究では『狐ライナールトあるいは動物の審判』において、具体的な修正内容を明らかにしてある。それは、できるだけキリスト教に関わる単語を削除するという方法であり、本書によって初めて検閲とその修正内容が全体として明らかとなった。
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