2017 Fiscal Year Research-status Report
動詞の多義性と文法化の理論的記述・分析-命題的意味、非命題的意味、視点的意味―
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16K02652
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Research Institution | Kyushu International University |
Principal Investigator |
日高 俊夫 九州国際大学, 現代ビジネス学部, 准教授 (50737525)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 複雑述語 / 複合動詞 / アスペクト / モダリティ / 再分析 / 推意 / 特質構造 / 視点 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、2016年度に関西言語学会第41回大会で発表した、イベント開始と終了に関わる複合動詞 「V-かける」および「 V-切る」に関する論文を『KLS 38』の中でまとめた(前者については連帯研究者である板東美智子氏との共著)。そこで明らかにしたことは、一般的にアスペクトを表すとされる両表現であるが、それは一枚岩ではなく、純粋にアスペクトを表す場合と、モダリティ的な意味を表す場合があり、それぞれ統語構造が異なるということであり、それを特質構造を含む意味表示を用いて形式化した。 また、かねてより取り組んできた「V-て行く」「V-て来る」に関して、その多義性と統語構造の関係を日本言語学会第155回にて発表し、それを『Theoretical and Applied Lingistics at Kobe Shoin: TALKS』において論文にまとめ、「V-て行く」「V-て来る」に関する先行研究の多義性分類 (森田, 1994; 澤田, 2013) をもとに、両形式の多義的な意味と統語構造の関係を、「V-て行く」の統語構造における再分析を示した新井・日高 (2016) に基づいて議論した。具体的には、同じアスペクトを表す例においても、「V-て行く」と異なり、対応する「V-て来る」では再分析が義務的でないものがあること、移動を表す場合、両形式は再分析において非対称的分布を示すことを明らかにした。 これらの研究を通して、これまでは別個に議論されることが多かった「V-テ-V」とV-V複合動詞も、全く異なるものというわけではなく、V-テ-Vの中でも、特に語彙的複合動詞と同様の意味構造を持つと分析可能なものは、テが実質的な意味機能を失い、再分析がされやすくなっているという仮説が成り立つ。その仮説の一部を現在論文にまとめているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「V-て行く」「V-て来る」を除き、通時的な考察があまりなされていないという点では若干予定より遅れているものの、これまでの2年間の研究で、研究対象とする複雑述語を記述・分析するための理論的デバイスがある程度定まってきたという点は、非常に良かったと思う。具体的には、Hidaka (2011)の意味表示を用いながら、Arai & Hidaka (2016)の「V-行く」の分析で用いたVIEWやDISといった関数を再定義することによって、他の複雑述語に関しても統一的な分析が可能な道具立ての見通しがある程度ついたと思われる。 また、複合動詞と「V-て-V」の関係についても一定程度考察が進んだ点は良かった。現時点で、語彙的複合動詞と同様の「1つのイベント」として考えることが可能な「V-て-V」では再分析が起こりやすいという仮説が得られた。この仮説を検証しつつ、本研究の対象に対してもこのような視点で分析を進めることによって、複合動詞と「V-て-V」の関係についても新たな洞察が得られることが期待される。 さらに、本年度の研究を通して歴史的文法化を観察するための視点を得られたことも大きかった。具体的には、本動詞からアスペクト等を表す補助動詞として文法化する際に、基体動詞の意味もしくはそれを比喩的に拡張した意味が推意として残ったり、推意に関連したりするのではないかという洞察が得られたので、歴史的文法化を検証する際も、この点を中心に観察していくという視点が得られ、歴史的文法化についての研究が進めやすくなってきたように思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定を若干変更して、研究対象を「開始および終了を表す複雑述語」に限定して研究を進めたい。理由は、イベントの開始・終了は、客観的に観察可能な場合とそうでない場合があり、後者の場合はモダリティ的になるので、本研究の重要なテーマである非命題的意味に大きく関連すると予測されるためである。 開始の例としては、「V-始める」「V-かける」「V-出す」「V-始める」「V-て来る」、終了としては、「V-切る」「V-終わる/終える」「V-てしまう」「V-果たす」「V-尽くす」「V-抜く」を分析する予定で、これまでに得られた「補部イベントのどこを指すか」「視点」「距離」という基準で統一的な理論的記述・分析を試みる。また、推意的意味を持つものについては、歴史的文法化過程も考慮しながら、その出処を明らかにする。 まず、開始を表す複雑述語の総合的分析を進める。現時点で日本言語学会第156回大会にて「複雑述語における命題と推意 ― 開始を表す表現について ―」という題目で発表が決定しており、それを論文の形にまとめた後、歴史的文法化も併せて追求したい。 終了を表す表現の中では、「V-切る」についてアスペクト的なものとモダリティ的なものがあることを明らかにし、意味構造を形式化し、それぞれ異なる統語構造を取ることを主張したが、同様の議論が他の複雑述語にもあてはまるかどうか検討していく。現時点では、少なくとも「V-てしまう」「V-抜く」に関してはアスペクトとモダリティの両方にまたがるという仮説を立てているので、それを検証していきたい。 以上の研究成果や仮説を踏まえ、最終的には開始・終了を表す複雑述語に関して、歴史的文法化も踏まえた統一的な理論的記述・分析を提示したい。
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Causes of Carryover |
予定していたOCRスキャナーをまだ購入していないこと、図書購入が、主にインターネット経由の論文が役立ったこともあり予定より少なかったこと、旅費が予定より若干少なかったことが次年度使用額が生じた理由として挙げられる。2018年度は国際学会にも応募予定であり、歴史的考察も本格的に始まることもあり、図書費、物品費、旅費共に必要な費用は2017度よりも増加することが予測される。
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