2018 Fiscal Year Research-status Report
動詞の多義性と文法化の理論的記述・分析-命題的意味、非命題的意味、視点的意味―
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16K02652
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Research Institution | Kyushu International University |
Principal Investigator |
日高 俊夫 九州国際大学, 現代ビジネス学部, 教授 (50737525)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 複雑述語 / 再分析 / VテV / 語彙的複合動詞 / アスペクト視点 / 視点 / 推意 / 主張行為 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、昨年度後半から続けているVテVの形態的緊密性について、V テV の中にも再分析(Hopper & Traugott, 2003) を受け、語彙的複合動詞と同様に全体がひとつの統語ユニットと解釈されることが可能なものがあることを示した。まず、「歩いて回る」「食べて歩く」のような、対応する語彙的複合動詞が存在し、V2 が本動詞としての容態の意味を失って単なる移動を表す補助動詞として解釈されるようなものでは再分析が義務的に起こるということが示唆された。また、対応する語彙的複合動詞が存在しない場合でも、「熱して溶かす」「干して乾かす」のように、V1がV2の結果状態を実現されるための典型的なイベントであると考えられるものは再分析が起こりやすいという結果が得られた。 次に、開始を表す類似の複雑述語「V-始める」「V-出す」「V-かける」「V-て来る」の表す詳細な意味を形式化した。具体的には、命題的意味のみを持ち、視点が未指定であり、推意を持たないアスペクト専用の「-始める」が開始を表すディフォルト的な表現であるのに対し、「V-出す」「V-かける」「V-て来る」ではそれらの情報がさらに細かく指定されていることを示した。その過程で、少なくとも当該現象において「意図性」をプリミティヴな素性として設ける必要はなく、「視点」の値から間接的に読み込まれること、推意の値は、基体動詞の意味や、命題的意味に対する解釈的意味として導出することを示唆した。 さらに、関連する現象として、文法化として分析可能なイギリス英語における口語表現とされる所有を表すhave gotについて考察した。具体的には、先行研究の意味論的説明を批判的に検討し、have got が富岡 (2010) の「主張行為」という発話行為を担うという語用論的説明を与えることで、先行研究で問題になるデータが説明可能になることを主張した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2018年度より役職に就き、大学改革等の業務に割く時間が増えたことにより、相対的に研究の時間が取りにくくなったことが一番の要因であると思われる。また、学生指導の過程で、英語の文法化についても分析・考察し、一定の成果を得られたことは、今後の研究にとっては非常に有益であったが、そのこともあって当初の予定よりも進行が若干遅れたことは否めない。 2017年度実施報告にあるように、2018年度の予定は、当初の研究計画を若干変更して、主に開始と終了に関わる複雑述語を分析し、具体的には「V-始める」「V-かける」「V-出す」「V-て来る」「V-切る」「V-終わる/終える」「V-てしまう」「V-果たす」「V-尽くす」「V-抜く」を歴史的側面も含めて考察することであった。実際には開始を表す4つの複雑述語の共時的分析については一定の成果を出せたものの、終了に関するものおよび歴史的考察については、上記の理由もあり、あまり進んでいないのが現状である。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度までほどの研究時間が確保しにくくなり、相対的にエフォートがやや低下していることもあって、研究期間の延長を検討中であるが、開始を表す複雑述語の共時的分析については正式な論文としてまとめている途中であり、2019年度中に出版の予定である。終了を表す複雑述語については、先行研究調査の途中であるが、2019年度には、最低限、共時的な分析をある程度終了したい。また、そこまでの結果を踏まえて、開始・終了を表す複雑述語の共時的分析を総括したいと考えている。さらに、可能であれば通時的分析に着手し、一定の見通しを立てたいと思う。
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Causes of Carryover |
2018年度については当初予算の水準を消化したが、それ以前に生じていた次年度使用額が持ち越された形となっている。これは主に物品購入費に当たるものであるが、通時的資料が比較的インターネットで無償利用できるようになってきたことと、当初の予定では2018年度に行うことになっていた海外における発表を、2019年7月にオーストラリアメルボルンのモナーシュ大学で行う予定であるので、そこに充当したいと考えている。
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