2020 Fiscal Year Research-status Report
動詞の多義性と文法化の理論的記述・分析-命題的意味、非命題的意味、視点的意味―
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16K02652
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Research Institution | Mukogawa Women's University |
Principal Investigator |
日高 俊夫 武庫川女子大学, 教育学部, 教授 (50737525)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 複雑述語 / 複合動詞 / 観察可能性 / 推意 / 特質構造 / 視点 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに、イベントの開始付近を表す複合動詞および複雑述語として「V-始める」「V-かける」「V-だす」「V-てくる」、イベント終了付近を表す複合動詞として「V-切る」の詳細な意味と統語構造を分析してきた。理論的記述・分析装置としてはPustejovsky (1995)を修正し、従来の語彙概念構造では表すことのできないアスペクトの詳細や、アスペクトに関わるポイントの観察可能性、「事象のどの点や部分をどこから観察するか」という視点、共感焦点(Kuno & Kaburaki 1977)の読みを許すか、もしくは専ら客観的(傍観的)な視点を取るのかという区別がこれらの複合動詞や複雑述語の分析には不可欠であることを示し、さらにそれらの情報の相互作用によって、それぞれの複合動詞・複雑述語が表す推意の一部が構成的に導出されるという示唆を得た。 さらに、今回は、完遂を表すとされる統語的複合動詞「V-ぬく」における「ぬく」の意味構造の形式化と「V-ぬく」の統語構造を分析し、日本言語学会第161 回大会にて発表した。具体的には、統語構造としては、影山 (1993) が話者によって VP 補文構造と V′補文構造のどちらを取るかにおいて曖昧性があると、また、由本 (2005) が V0 補文構造として分析しているのに対して、本発表では、「られ」を 使役の意味を表す形態素としても分析する畠山・本田・田中 (2018) を援用することによって、「ぬく」は一律に VP 補文構造を取ることを示した。意味の面では、2つの「ぬく」の登録を仮定し、形式的・構成的意味合成を提案することにより、先行研究(姫野 (1980, 1999), 森田 (1989) 等)における直観的な分類に対して理論的根拠づけを与えつつ再構成し、文法化の側面からもその分類の妥当性を示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
大学を異動し、それまでに担当していなかったタイプの授業を新たに多く担当するようになったことに加えて、新型コロナ対応に伴う遠隔授業および会議等の増加といった要因のために研究に注力できなかったというところが実情である。 当初の計画のうち、共時的分析はある程度進み、もう少しでまとめられる見通しは立った一方、通時的分析はあまり進んでいないという現状であるが、今後、共時的分析をまとめると共に通時的分析も推し進めていくことによって、提案している分析装置および分析方法の妥当性も高まると考えられるので、可能な限り通時的分析の方も進めていきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
最後の1年間となるので、昨年度行う予定であったことを是非遂行していきたい。まず、研究の集大成となるべく、これまでの研究を極力齟齬のない形でまとめていくと同時に、特にイベントの終わり付近を表す表現である「-尽くす」を主な対象として研究していく予定である。現時点では、非命題的意味であるTELICやAGENTIVEといった特質構造中の記述の基準が必ずしも厳密になされていない部分もあるので、それを厳格化し、分析に統一性を持たせることが研究の一般性につながると同時に、理論的にも重要な意味を持つと考える。 通時的な視点からの分析も望まれるが、現時点では、まず共時的視点からの分析を行い、全体を統一的に扱えるように調整した上で、可能な限り通時的な問題についても考察していきたい。 比較的大きなパースペクティヴから述べると、イベントの開始付近や終了付近は、それぞれ「開始」「終了」の認定に対して主観の入る余地が比較的大きく、その「主観」の具体的意味(推意を含む)は、当該補助動詞が文法化の過程を経て本動詞から受け継いだものであるという仮説を持っている。その、本動詞から補助動詞にわたる多義性の派生過程を描き出すことも重要な課題である。一方、イベントの途中に関しては、比較的主観の入る余地は少ないと思われるので、文法化・語彙化を経たものであってもモダリティとしてはたらきにくいと予測されるが、その予測に対する検証も課題である。
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Causes of Carryover |
新型コロナ流行における旅費使用の減少が主な理由である。対面の出張が可能になれば旅費として使用する予定である。
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