2021 Fiscal Year Research-status Report
動詞の多義性と文法化の理論的記述・分析-命題的意味、非命題的意味、視点的意味―
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16K02652
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Research Institution | Mukogawa Women's University |
Principal Investigator |
日高 俊夫 武庫川女子大学, 教育学部, 教授 (50737525)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 特質構造 / 命題的意味 / 推意 / 視点 / アスペクト / モダリティ / 補助動詞 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに、イベント開始付近を表す複合動詞および複雑述語として「V-始める」「V-かける」「V-だす」「V-てくる」、終了付近を表す複合動詞として「V-切る」「V-ぬく」の詳細な意味と統語構造を分析してきた。理論的記述・分析装置としては、Pustejovsky (1995)を修正し、従来の語彙概念構造では表すことのできないアスペクトの詳細や、アスペクトに関わる時点の観察可能性、「事象のどの点や部分をどこから観察するか」という視点、共感焦点(Kuno & Kaburaki 1977)の読みを許すか、もしくは専ら客観的(傍観的)な視点を取るのかという区別を明示できるようにした。そして、このシステム内の情報の相互作用によって、それぞれの複合動詞・複雑述語が表す推意の一部が構成的に導出されるという示唆を得た。 今年度は今までの分析のまとめの一部として、類似の意味を持つと思われる「V-切る」と「V-ぬく」の意味と統語構造を詳細に比較し、統一的な分析を試みた。それぞれに対して2つの意味構造が想定されるのに対して、「V-切る」の場合はアスペクト的なものとモダリティ的なもので異なる統語構造を取る一方、「-抜く」はいずれの用法とも本動詞が持っている意図生や制御性をより残しており、別個の統語構造を取らないことを明らかにした。また、このことから、「-ぬく」は本動詞により近く、文法化の観点から見ても、完全なアスペクトマーカーとしての用法を持つ「-切る」よりも文法化が進んでいないことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナ蔓延に伴い、学外出張が困難であったことや学内の遠隔授業対応に時間を割かれたことにより研究時間が減少したことが直接的な原因である。また、より多くの学内業務を担当することなったことや、学会運営に関する業務が増えたことも遠因である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究をまとめていくと同時に、計画していて実現できていない、イベントの終わり付近を表す表現である「-尽くす」を主な分析対象として研究していく予定である。今年度の分析を通して、これまで分析してきたことがある程度統一的にまとめられるのではないかという示唆が得られたので、「-尽くす」の分析と共に、これまでの分析を統一していくことを推進していきたい。可能であれば通時的な問題についても考察していく予定である。 また、現在は少しだけ方向性の異なる分析対象として、主に若者言葉として用いられると考えられる「普通に」の分析に取り組んでいるが、そこでも先行研究で文法化に伴う現象とされている「主観化」や「間主観化」といった現象や、従来想定されていた文法化の方向性とは逆の「客観化」が関わっているという示唆が得られた。今後はこの分析も踏まえて、現在使用している理論装置がさらに幅広い現象に対して適用可能であることを示していきたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナ流行における旅費使用の減少が主な理由である。対面の出張が可能になれば旅費として使用する予定である。
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