2017 Fiscal Year Research-status Report
琉球語の敬語・指示詞の体系解明と南琉球八重山地方諸方言の総合的記述を行う研究
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16K02683
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
荻野 千砂子 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (40331897)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 一人称敬い / 敬語 / 謙譲語 / 指示詞 / 授受動詞 |
Outline of Annual Research Achievements |
敬語研究では、八重山地方の敬語体系が共通語の体系と根本的に異なる点があることに着目した。現代共通語では一人称複数が主語となる勧誘表現において、聞き手が上位者であっても「*先輩、一緒にいらっしゃいましょう」と尊敬語を使うことはできない。しかし、宮良方言では「先輩,一緒にoor-a(いらっしゃいましょう)」と尊敬語を用いることができる。だが、宮良方言でも「自分を敬ってはいけない」とされ,一人称への尊敬は禁忌である。しかし,一人称複数を主語とする場合,上位者が含まれかつ上位者が聞いている場面では尊敬語を優先するしかなく,結果としての一人称へも尊敬語を用いる仕組みがあることを発見した。また,謙譲語Aに相当する語では補語を尊敬する機能が基本であるが、主語に任意で軽度の敬意を付すことができる。なぜそうなるかという仕組みについて考察した。 北琉球の敬語研究では,喜界島での授受動詞体系の概要を調査した。補助動詞では本動詞とは異なる動詞を使うことが明らかになってきた。補助動詞でどこまで文法化が進んでいるかを明らかにするため,来年度も引き続き調査する予定である。また,丁寧語に相当する形態素は無く,聞き手への敬意を表すために尊敬語の形態素で代用していることも分かってきた。 指示詞に関しては,新たに竹富町西表船浮方言の現場指示の用法を調査することができた。同じ八重山地方であるが体系が異なることが分かった。もの指示では「ku(近)/u(遠)」の2系対立だが,場所指示は「u(近)/ku(近)/ka(遠)」の3系対立であり,2系と3系の体系が混在していることが明らかになった。 その他の文法事項として,形容詞語幹の重複用法に2通りのメロディーがあり,意味が異なる事象があることを見つけ,その仕組みを明らかにすることに取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
敬語の研究では,根本的な敬語運用の法則をほぼ明らかにできたと考え,宮良方言での謙譲語uyoohuN(差し上げる)について,全国学会誌に投稿した。だが、再査読の結果が出たため,現在訂正論文を執筆中である。ただ,敬語体系全般に関しては,まだ明らかにできていない。丁寧語も共通語とかなり異なる文法体系を持っていることが分かったため,慎重に調査を進めている。 指示詞については,現場指示の基本的な用法を明らかにできたため,現在,文脈指示の用法の確認をしている。現場指示では,共通語の指示詞と用法が異なるため,「相対的距離」や「対表現」と定義づけた。文脈指示でも,これらの用法が基盤になっているようである。さらに詳細を調査する予定である。また,共通語では指示副詞はコウ・ソウ・アアの3項対立だが,宮良方言方言では2項対立の「anzi」「kanzi」である。この体系の相違点を明らかにすべく用例をいくつも作って調査しているのであるが,現在のところよく分からないことが多い。 北琉球語の喜界島の丁寧語では,対者敬語として「です・ます」にあたる形態素がなく,尊敬語の形態素を代用しているのではないかという見通しが出てきた。しかも,尊敬語の敬意の程度によって,聞き手への尊敬の程度を変えているのではないかと考えている。また,本動詞と補助動詞の用法で,異なる動詞が用いられていることも明らかになってきた。今年度は,授受動詞体系全体の記述を行いたい。 談話資料は,順調に集まっている。今後,話者が少なくなることが考えると,談話資料が貴重なデータになるため,できるだけ多く採取する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
宮良方言の謙譲語には,uyoohuN(差し上げる)の他にも,ssIsariruN(申し上げる),sikeehuN(ご案内する),kuyoomuN(お目にかかる)がある。よって,これらの語にも主語尊敬機能があるのか調査を行うこととする。また,丁寧語の仕組みを明らかにする。宮良方言には「です・ます」にあたる形態素がなく,聞き手に対する配慮のために存在動詞やコピュラの語幹に尊敬語ooruN(~なさる)を下接する。しかし、例えば,「あそこに大きな家があった」はaru(ある)にooruN(~なさる)を下接してar-ooruN(ありなさる)とし,これを上位者に言うと「大きな家がありました」相当の丁寧語としての解釈が可能となる。この仕組みについて記述する。また,終助詞のyuuも聞き手敬いではあるが、例えば「あそこにネコがいますよ」と先輩に言うときには、yuuを終助詞として用いることはできない。つまり,共通語の「です・ます」のように、聞き手への配慮を表す形態素はなく、他の形態素を聞き手尊敬として代用しているのではないかと考え、調査を行う予定である。 北琉球語の喜界島方言の授受動詞の調査では人称を詳細に設定して行うこととする。また,与論島方言の敬語について概略だけでも記述を行う。 指示詞に関する研究では,文脈指示用法の調査を宮良方言と黒島方言で行う。さらに船浮方言でも可能な限り調査を試みることにする。喜界島方言でも現場指示と文脈指示の概要をまとめる。さらに宮良方言の指示副詞「こう,そう,ああ」に相当するanzi,kanziに関して未解明であるため,継続的に調査を行う。 文法調査と並行して談話採取に取り組み,簡易文法スケッチを行うこととする。形容詞の語幹の重複用法に2通りのメロディーがあり,それが意味の違いを表しているとすると世界の言語の中でも珍しい現象であるため調査を進める。
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Causes of Carryover |
物品費に関してはパソコンが7年目なので購入する予定だったが,一年ほどは使えそうだったので次年度購入に変更した。旅費に関しては,文化庁委託事業と国立国語研究所からの合計で5回分の調査補助費が出たため,そちらを優先的に使うことにした。それに伴い,科学研究費は次年度への繰り越しすることにし,次年度の調査旅費として有効活用することを考えた。
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Research Products
(3 results)