2017 Fiscal Year Research-status Report
フランス語圏アフリカ手話の記載的研究に基づく言語・知識資源の理論構築
Project/Area Number |
16K02689
|
Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
亀井 伸孝 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (50388724)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | フランス語圏アフリカ手話 / 手話言語 / ろう者 / 手話辞典 / 民族誌 / アフリカ / コートジボワール / アビジャン |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、コートジボワールおよびフランスに滞在し、調査に従事した。コートジボワールでは、アビジャン市においてろう者たちの手話の撮影を行った。あわせて、現地の協力者の参加を得て、各手話動画の英語訳およびフランス語訳のリストを作成した。これらの作業を経て、合計3,537件の手話動画の撮影、編集、翻訳を終了した。 また、アビジャン在住の高齢のろう者たちとの手話による聞き取り調査で、1974年に同市内に開設されたろう学校の第一期生の人脈を得ることができ、多くの証言を得た。また、この協力者たちが保管していた、1970年代以降の写真と新聞記事、雑誌記事を発見した。今日のアフリカの10か国以上もの国ぐにで用いられている大言語の成立と伝播の過程を解明する、世界的にもきわめて貴重な発見となった。 フランスでは、世界におけるアフリカ研究の拠点である社会科学高等研究院アフリカ研究所に在籍し、社会科学高等研究院ならびに近隣大学等で行われている研究会活動に参加し、発表するほか、国立東洋言語文化学院所蔵文献の閲覧等を通じて、文化人類学、アフリカ地域研究、手話言語研究の資料を収集した。 成果の発信面では、朝倉書店『手の百科事典』が刊行されたほか、社会科学高等研究院のウェブジャーナルに査読付きの論文が掲載された。 また、4回の国際学会における英語発表(うち1回は大会全体講演)を行った(国際人類学民族科学連合中間会議(カナダ)、欧州アフリカ学会(スイス)、西アフリカ言語会議(ガーナ)、米国アフリカ学会(アメリカ)) このほか、多くの研究会発表や講演を行い、成果の還元に努めた。コートジボワール滞在中に、4回の発表、講演を行った。また、ヨーロッパ滞在中に、6回の発表、講演を行った。これらの議論を通じ、辞典編纂と民族誌執筆のための多くの情報を得ることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フランス語圏アフリカ手話(コートジボワール方言)の記載とDVD版の辞典作成のための撮影、編集、翻訳作業は、順調に進められている。現地のろう者団体Society Without Barriersおよび国立ろう学校Ecole Ivoirienne pour les Sourdsの協力を得て、アビジャン市ヨプゴン地区においてろう者たちの手話を撮影した。また、現地の協力者たちのための研修を実施し、パソコンを用いた動画の編集スキルの指導をした上で、共同作業を行った。あわせて、手話と英語、フランス語の素養のある現地の協力者の参加を得て、各手話動画の英語訳およびフランス語訳のリストを作成した。 これらの作業を経て、合計3,537件の手話動画の撮影、編集、翻訳を終了した。その内訳は、アルファベット65件、数113件、一般語彙2,983件、固有名詞227件、会話表現143件、自由会話6件である。この規模での西アフリカに分布する手話の動画データの集積が達成されたのは、世界でも初めてのことである。 フランス語圏アフリカ手話の成立の過程を明らかにするための、1970年代前半の西アフリカにおけるろう者たちの教育、社会活動、移住等の歴史を明らかにする作業も進められている。アビジャン在住の高齢のろう者たちとの手話による聞き取り調査で、1974年に同市内に開設されたろう学校の第一期生の人脈を得ることができ、多くの証言を得た。また、この協力者たちが保管していた、1970年代以降の写真と新聞記事、雑誌記事を発見した。彼らは、1970年代前半に、ナイジェリアからコートジボワールにアメリカ手話の語彙が大量に流入した経緯を、留学という形で担った当事者たちであり、保管されていた文献および写真はそれを具体的に裏付ける資料である。 これらのデータ収集や資料の発見に見るとおり、研究計画はおおむね順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、フランス語圏アフリカ手話(コートジボワール方言)のDVD版辞典作成のためのシステムの構築、辞典の校正作業、刊行へと至るプロセスを進めていく。 また、紙媒体の辞典もほぼ原形が完成しており、その校正作業を経て、刊行へとつなげていく。 最後に、ろう者コミュニティ形成に関わる民族誌を執筆する。これまで発見された、コートジボワールを中心としたフランス語圏アフリカ手話の成立の過程を示す資料や証言などを整理し、西アフリカ4か国(コートジボワール、セネガル、ブルキナファソ、トーゴ)におけるろう者コミュニティの現状とその歴史的な動態を描く。現在、それらにまつわる文献、写真などの整理を進めており、順次論文にまとめていく。 本研究課題の一部について、第9回世界アフリカ言語学会議 (WOCAL9)(2018年8月25-28日, モロッコ王国ラバト=サレ=ケニトラ地方, ラバト, ムハンマド5世大学ラバト・アグダル校人文学部)における発表を予定しており、すでに発表要旨が大会委員会によって採択されている。
|
Causes of Carryover |
【状況】当初計画に比べて、若干の旅費経費節減ができたため。 【計画】残額は、次年度における旅費、物品費の一部として有効に活用する。
|
Research Products
(12 results)