2016 Fiscal Year Research-status Report
移住女性のリテラシー保障に向けた学習支援体制と地域コミュニティの構築に関する研究
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16K02828
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Research Institution | Osaka Sangyo University |
Principal Investigator |
新矢 麻紀子 大阪産業大学, 教養部, 教授 (70389203)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
棚田 洋平 一般社団法人部落解放・人権研究所(調査・研究部), 企画・研究部, 研究員 (00639966)
高橋 志野 愛媛大学, 国際連携推進機構, 准教授 (30363261)
向井 留実子 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (90309716)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 国際結婚移住女性 / リテラシー(識字)の個別性と多様性 / 日本語教育保障 / 社会的正義と公正 / 地域コミュニティの開発 / ジェンダーと社会参加 / 外国人支援人材の育成 / 日本語学習支援体制の構築 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本語学習機関が皆無の地域にて、国際結婚移住女性のリテラシー保障の過程をアクションリサーチの手法で描くモノグラフであり、成果の社会への還元を目指す。a)国際結婚移住女性に密着型参与観察とインタビュー調査を行い、移住女性の多様で個別的なリテラシーの実態を解明する。b)公的機関やNPO等の地域コミュニティとの協働により、多文化人材を育成し、移住女性のリテラシー保障に向けた日本語教室を開設し、その過程のダイナミクスを描き出す。3年間の最終研究成果として、c)外国人散在地域における日本語教育施策モデルを提言することを目指す。 2016年度は、対象地域を2016年6月、8月、2017年2月に計3度訪問し、実態調査、日本語教室開催、地域コミュニティへの啓発活動を実施した。 a)は、移住女性の居住地域を訪問し地域の特性を確認した。密着調査として、承諾を得た女性の自宅を訪問し、参与観察と聞き取りを行い、一部の家族に聞き取りを実施した。経済的格差や家族の理解と協力の有無が、移住女性の日本語教室へのアクセス、リテラシー、社会参加に影響していた。b)は、2016年2-3月に「日本語サポーター入門講座」を共催し、今後の外国人支援の主体となることが期待された社会福祉協議会が、外国人支援や人材育成への関与に消極的になり、協働が果たせなかった。日本語教室活動では、学習者の減少と学習意欲の低下が際立った。直接的要因は、夫や姑の看護・介護、子どもの世話、仕事によると考えられるが、10-20年もの間、日本語学習機会なく生活した経験が移住女性に日本語学習の意義を見失わせた可能性もある。 移住女性の居住地域への訪問や密着調査の実施が、リテラシーの個別性と多様性を解明する契機となったこと、同時に、女性+外国人という脆弱性が表面化したことで、移住女性支援の重要性が明らかにできた意義は大きい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
「研究実績の概要」のa)については、挑戦的萌芽研究の時からの課題としていた移住女性への密着調査が実施できたことで、これまで見えにくかった移住女性の居住環境、経済的状況、家族関係等、リテラシー習得をめぐる学習環境の一端が明らかにできたことは大きな前進であると評価できる。しかし、対象人数が少ないため、2017年度はさらに数名の移住女性に密着調査を行いたい。b)は、大きな課題である。日本語教室への移住女性参加者が減少しており、教室に参加した学習者も学習意欲の低下が散見される。考え得る要因は上記に示したが、より深い聞き取り調査や参与観察を実施し、分析したうえで、各学習者個別の文字学習メニューを準備することが必要である。また一方、2015年度まで漸進してきた地域コミュニティの意識開発や協働が、2016年度は停滞したと言わざるを得ない。 2016年度は、研究代表者が在外研究でアメリカに滞在する、研究メンバーの複数に健康上の問題が生じる等、想定外の事象が生じた。それによって、現地調査の実施が困難になる、学会発表や論文投稿という研究成果公開が減少する等、研究の推進にブレーキがかかった。
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Strategy for Future Research Activity |
1) 移住女性の多様かつ個別性の高いリテラシーの実態把握:調査に協力的で、漢字教室にも出席しているモデルケーススタディになり得る数名を対象に、密着調査を行う。実際の生活場面に入り、どのような書字言語に接触しどう対処しているかを参与観察と写真撮影(静止画・動画。許可を得られた場合のみ)によってリテラシー環境の実態解明に取り組む。 2) リテラシー保障の場としての日本語教室の日常的開設の方法論の検討:社会福祉協議会と協働的開催が予定通りに可能かどうかを2017年6月の調査時に話し合いを持ち探る必要がある。可能性が低い場合には、他の方法を検討しなければならないが、現時点ではまだ確定的な計画はできていない。 3) 移住外国人支援人材の育成の内容と方法の開発:日本語教室の開設に向けて支援人材の育成を行う。2015年度に社会福祉協議会で実施した「日本語ボランティア養成講座」の参加者を中心として、継続的育成を行いたい。「日本語を教える」ことに限らない支援ができる「多文化交流・相互学習型」人材の育成とその方法論の開発を目指す。 4) 移住女性の存在の可視化と地域コミュニティの外国人受け入れ文化の形成:2015年度に現在の漢字教室がメディア(愛媛新聞、愛媛CATV)に取り上げられ、移住女性の存在と彼女らが直面する困難が地域社会に認識される機会を得た。それをもう一歩進め、彼女らと地域住民が交流する機会や彼女らの能力や個性が発揮できる機会を設け、地域コミュニティの受け入れ能力開発を試みるとともに実態を分析する。一方、家族や知人といった身近な人たちとの対話を行い、移住女性支援のあり方をともに検討する。 これらの研究成果を、学会発表や論文投稿によって公開する。
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Causes of Carryover |
2016年度は、研究代表者が在外研究でアメリカに1年間滞在したことで、実態調査に参加できなかった。また、研究代表者、研究分担者の複数に健康上の問題が生じ、予定していた調査ができなかった。それら想定外の事象により、現地調査の参加人数と回数が大きく下回り、調査出張費に残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年度からの繰り越し予算は、2017年度分と合算し、主に現地調査出張費として使用することを予定しており、研究分担者にもその配分をしている。その他、調査用にICレコーダを購入する等を計画している。
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