2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K02849
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
藤岡 真由美 大阪府立大学, 高等教育推進機構, 教授 (40351572)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 大学院共通教育 / 学術英語 / カリキュラム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、(1)日本の大学院共通教育レベルにおける学術英語教育における現状、課題、および将来的展望を明らかにすること、(2)大阪府立大学における大学院学術英語教育授業を開始、発展させること、(3)上述の(1)、(2)で得られた知見にもとづき大学院共通教育学術英語のカリキュラムモデルを提案すること、である。本研究は従来のEnglish for Specific Purposes (ESP)(特定専門目的のための英語)の枠組みを超え分野横断的学術英語教育の視点からの研究である点が特色である。また、大学院共通教育は日本の大学において新たに台頭してきた検討課題であるため、その一環としての学術英語教育は発展的可能性の大いにある研究テーマである。 研究初年度であった平成28年度では、上記(2)に挙げた授業が開始されその内容を学会発表と論文を通じて報告した。また、この授業をGenre approach (ジャンルアプローチ)またはGenre-based instruction(ジャンル概念にもとづいた指導)(e.g., Hyland, 2004, 2007)という応用言語学の枠組みで実践し、ジャンル理論への精通を深めた。それと同時にジャンル理論以外の枠組みの必要性も認識し、今後追加の理論を検討することにした。授業実践の他に、平成28年度では大学院学術英語を提供している他大学の事例も収集する予定であったが、研究発表を通じて学んだ1校のみの事例収集に終わった。 大阪府立大学においては、大学として初めて大学院共通教育レベルにおける学術英語授業を開講した点で意義があった。日本の学術英語教育分野においては、大学院教育はまだ事例も少ないため、本研究を通じて得られる授業実践からの知見および大学間の実践例の比較・考察からの知見は、分野全体の発展に大きく貢献すると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
大阪府立大学では、Academic Writing A という科目名で平成28年度に大学院共通教育英語科目を開講した。25名の主として理系大学院生に対して、サイエンス系の英語学術論文の書き方を指導した。授業実践は、(1)上述のジャンル理論およびジャンルアプローチの参考文献をもとにした教材作成、(2)学生自身による個別の専門分野での論文ジャンル分析、(3)提出課題を通じての教員と学生の対話促進、を柱とした。(1)のジャンルアプローチを通じて理系英語論文に共通的な構造的、語彙的特徴を導入し、本研究の目的である分野横断的学術英語教育の視点からの教育を追求した。一方、理系各分野における特徴的な論文の書き方や語彙使用については、(2)の学生自身による自分の専門分野の論文ジャンル分析に任せた。さらに、提出課題として学生に英語論文の一部(例 Introduction)を作成させたが、作成過程の中で生じた疑問(例:英文および使用した語彙の妥当性)や不安な点などに関する自由記述も草稿提出時に提出させ、同じ専門分野におけるグループメンバー間でのピアフィードバックを実施した。さらに、これらの自由記述に対する教員からの返答および草稿に対する詳細なフィードバックを通じて、(3)の教員と学生の対話促進、を実践した。以上の3点にもとづき授業を遂行することができ初年度の目的は達成できたと考える。 一方、他大学における大学院英語教育の事例収集は1校のみにとどまり、やや遅れている結果となった。学会発表を通じて、関西の国立大学における理系大学院生のための英語ライティング教育の実践例を学んだ。授業内容について大阪府立大学の授業内容と多くの共通点があったが、その大学の授業担当者はジャンルアプローチを背景理論とはしておらず、その違いも大いに参考になった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度においても、大阪府立大学での授業実践の継続と他大学における大学院英語教育の実践事例の収集を実施し、具体的に以下の点を遂行する。 大阪府立大学での授業実践では、ジャンルアプローチのさらなる効果的な導入の仕方を検討する。平成28年度の授業では、参考文献にもとづき理系論文に特徴的な、あるいは使用頻度の高い英文形式および定型句を紙媒体で教材として配付した。しかしながら、ジャンル研究にもとづいた学習支援ツールの開発も進んでおり、平成29年度の授業では実際に学生に学習支援ツールの一部を使用させ、テクノロジーを通じていかに学術英語学習が促進されるかを考察したい。さらに、ジャンルアプローチ以外にも分野横断的な学術英語教育に有効な理論的枠組みや方法論を検討したい。また、29年度は理系学生に加えて社会科学系の学生の受講も予定されており、分野横断的大学院英語教育のさらなる考察を進めたい。 他大学での大学院英語教育実践例については、本研究申請時点ではアンケート調査および授業見学、担当者インタビューなどとしていたが以下の変更を予定している。本研究実施者が運営に関わっている学術英語学会の平成29年度大会においては、大学院教育がテーマであり複数の大学での実践例が報告されることになっている。これらの発表を足掛かりに、見学やインタビューを通じてそれらの大学の実践例の詳細な事例を収集することとし、その結果、アンケート調査が必要でなければ実施しない可能性もある。 さらに、平成29年度の終わりには本研究実施の2年間で蓄積されたデータ(大阪府立大学における授業実践記録、他大学での授業実践例、担当者インタビュー)を質的研究データ分析ソフトウェアであるNVivoを使用して分析し、本研究の最終目的である大学院共通教育における学術英語カリキュラムモデルの構築に向けて前進したい。
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Causes of Carryover |
平成28年度未使用額の主たる理由は、他大学の大学院英語教育に関するデータ収集が十分にできなかったことが旅費に影響したことと、データ分析に関わる人件費が必要なかったことである。2点目の人件費に関しては、28年度に収集したデータは本研究担当者一人で整理、分析可能な範囲であった。また、28年度経費申請時に予定していた質的研究分析に関わるワークショップには日程の都合により参加できなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度未使用額は、29年度参加予定の上記ワークショップに配分することとする。また、人件費については29年度のデータ収集状況に応じて、必要な人員を検討し適切に配分することとする。旅費、その他については29年度予定額に応じて使用する予定である。
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