2018 Fiscal Year Research-status Report
蝦夷地のアイヌ有力者が入手した外来交易品と勘定システムの成立に関する研究
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16K03007
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Research Institution | Hokkaido Museum |
Principal Investigator |
東 俊佑 北海道博物館, 研究部, 学芸員 (30370224)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 交流史 / 北海道史 / アイヌ / 蝦夷地 / 場所請負制 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、おもに以下の4つの項目について、研究とそれに係る作業・調査を行い、成果を公表した。 1.前年度に引き続き、北海道大学附属図書館所蔵のウショロ場所経営帳簿『北蝦夷地用』の翻刻を進めながら、帳簿後半部分の分析を進めた。当初の予定では、本年度中に翻刻、及び分析を終わらせ、年度末に成果を公表する予定であったが、職場の業務過多により、すべてを終わらせることができなかった。本年度は、帳簿のなかの1859(安政6)年「撫育」に係る部分の分析を行い、その結果を『北海道博物館研究紀要』第4号に寄稿し、研究成果を公表した。 2.平成29年度に研究成果として公表した論文「『土人給料勘定』のしくみ(Ⅰ)」の成果普及として、北海道・東北史研究会例会2018において、研究発表を行った。 3.1862(文久2)年に起こった北蝦夷地ウショロ場所アイヌの逃亡事件(「トコンヘ一件」)と本研究における帳簿分析の結果を照合した成果普及として、9月9日に「北蝦夷地ウショロ場所物語」と題する講演会を行う予定であったが、台風や北海道胆振東部地震の影響により延期となり、年度をまたいだ2019年4月7日に実施した。 4.本研究における帳簿分析の結果とウショロ場所アイヌ有力者が入手した外来交易品としての漆器の関係を分析すべく、金沢、新潟、福井、東京等の史料保存機関において、北蝦夷地関係史料の調査を行い、成果をとりまとめた。とりまとめた成果は12月9日に実施された国際シンポジウム「アイヌの漆器に関する学際的研究」において発表し、その内容を原稿化し、浅倉有子編『アイヌの漆器に関する学際的研究』へ寄稿・出版された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
帳簿のデータ入力作業は若干滞っており、職場の業務への突発的対応などもあり、本来計画していた成果の公表は遅れている。しかしながら、別科研の研究で課せられた課題を、本研究と連関させながら、そして時に援用しながら分析を進めるうちに、当初予定していなかった成果を得ることができた。具体的には、本研究課題で設定したアイヌ有力者が入手した外来交易品としての漆器の分析を進めるなかで、アイヌの有力者やその子弟が高価な漆器を入手するしくみに、勘定システム(給料勘定)が使われていることがきわめてクリアになってきた。また、「給料勘定」というしくみが幕末になって箱館奉行がアイヌ政策を進めるなかで新たに導入したシステムであることも、より具体的に明らかになった。もともと立てた研究計画からすれば、現在の進捗状況は「遅れている」と言えるが、現在の状況は、それ以上に有益な研究成果が得られているところなので、両者を相殺して、「現在までの進捗状況」を「おおむね順調に進展している」と評価するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
1.まずはウショロ場所経営帳簿『北蝦夷地用』記載情報のExcelへのデータ入力作業を完了させ、帳簿後半部分の分析結果を「『土人給料勘定』のしくみ(Ⅲ)」として取りまとめることを本研究の主眼とする。 2.平成30年度に行った漆器の入手と「給料勘定」のしくみの連関分析が非常に有効な分析であることがわかったので、他の外来交易品についても分析を試みる。 3.『北蝦夷地用』の分析が終わり次第、北海道博物館所蔵のアイヌ交易帳簿『土人勘定差引帳』(林家文書)についても、その記載情報のExcelへのデータ入力作業を開始することとする。 上記の3つを本研究の主軸と位置づけ、研究成果の普及、共有に努めることとする。その他、蝦夷地のアイヌ有力者が入手した外来交易品についての状況を把握するため、関係する古文書やアイヌ風俗画についての調査を同時並行的に進めることとする。
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Causes of Carryover |
本年度11月までは、きわめて順調に計画的に予算を執行していた。しかし、12月以降、勤務先において突発的な業務が発生し、その対応に追われることになり、計画的に予算を執行することが困難となった。そのため、46,118円を使い切ることができず、やむなく次年度に繰り越すこととした。2019年度、2020年度は、もともとの交付額が少なく、足りなくなることが当初から予想されていたため、今年度、来年度に計画的に使い切ることが可能な状況にある。
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Research Products
(8 results)