2016 Fiscal Year Research-status Report
有末機関の研究-有末精三新史料から見る占領初期のGHQと日本陸軍-
Project/Area Number |
16K03046
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
河島 真 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (00314451)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 有末機関 / 武装解除 / 憲兵隊 / 連合国軍捕虜 / 復員 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで翻刻を終えた『備忘録』及び『横浜機関書類』から明らかになったのは次の点である。 第1に、敗戦直後の有末機関が進駐軍の受け入れを円滑に行うことを第一目的として活動していたことが明らかになった。厚木進駐に関しては、有末精三『終戦秘史有末機関長の手記』(芙蓉書房、1976年)に詳しいが、進駐軍が横浜から東京に移る時期以降の記述は薄い。これに対して、『備忘録』『横浜機関書類』は、宿舎の手配などこの時期の動向を相当細かく記載している。また、進駐軍との関係で、連合国軍捕虜の解放が最重要課題であったことも確認され、それをめぐる交渉の過程も明らかとなった。 第2に、進駐軍の指示を受けながら、武装解除、旧軍施設の処理、そして復員の実施など、敗戦にともなう陸軍の解体を進めることも有末機関の重要任務であったことが明らかになった。武装解除については、軍刀の没収、憲兵隊の解散(実際は治安維持の観点から一部存置)、旧軍施設の取り扱いなどが課題となっている。旧軍施設については、空港の利用のほか、工廠や研究所を民生用に「再利用」することが主な問題となっていたところが注目される。復員については、経済情勢が混乱する中で、その定住や再就職に気を配られていた。 このほか、原子爆弾の影響を調査するために米兵を広島に案内したこと、細菌戦に関連して米軍が防疫給水部の石井四郎中将や軍医学校に関心を持っていることなど、米軍の動向についても記載されており、さらに分析を進めていきたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)史料の翻刻がおおむね予定通り進行している。『備忘録』の翻刻はほぼ完了した。『横浜機関書類』の翻刻にも着手することができた。
(2)国立国会図書館憲政資料室の調査を行うことで、そこに所蔵されている「有末精三関係文書」の中から、戦後の日記(1959~1982年、一部欠落)の写しを手に入れることができた。残念ながら占領初期のものは残されていなかった。
(3)防衛研究所所蔵史料からは、当初予定していた『終戦機関連絡報綴』に加えて、本研究にとってたいへん重要な史料の写しをほかにも何点か入手することができた。概要は以下の通りである。①『終戦機関連絡報綴』(1冊)。これは、「横浜機関」時代(1945年9月上旬)の有末機関の報告書とみられる。②『有末機関報綴』(2冊)。「有末機関報」229~469号(1945年10月17日~11月30日)が綴じ込まれており、本研究においては最重要の関連史料と言える。但し、228号まで(9月中旬から10月16日までのおよそ1ヶ月分)が失われている。③『復連報綴』(2冊)。「復連報」511~1054号(1945年12月2日~1946年3月29日)が綴じ込まれている。文書の作成者名等から判断して、実質的に「有末機関報」の続きとみられる。④『連合軍司令部の質問に対する回答文書綴』(4冊)。連合国軍司令部からの質問に対する回答文書(1945年10月29日~12月22日)が綴られている。内容は主に、日本軍の軍事作戦に関するものであり、戦争犯罪人の検束と裁判を目的に収集されたものと思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.4~9月 (1)『備忘録』については、崩れすぎていて判読できない文字も多く、引き続き正確な翻刻を試みたい。さらに、防衛研究所所蔵の『終戦機関連絡報綴』、『有末機関報綴』、『復連報綴』、及び当時の新聞報道と史料との照合を行うことによって、前半部分の記述内容の精細な注記・解題作成を行う。(2)『横浜機関書類』については、引き続き後半部分の翻刻を急ぎ、9月までには完了したい。(3)8~9月にかけて、国立国会図書館憲政資料室で「有末精三関係文書」の調査を行う。今回は、主に戦前の史料の収集を行う。
2.10~3月 (1)『備忘録』については、防衛研究所所蔵の『終戦機関連絡報綴』、『有末機関報綴』、『復連報綴』、及び当時の新聞報道と史料との照合を行うことによって、後半部分の記述内容の精細な注記・解題作成を行う。(2)『横浜機関書類』についも、防衛研究所所蔵の『終戦機関連絡報綴』、『有末機関報綴』、『復連報綴』、及び当時の新聞報道と史料との照合を行うことによって、前半部分の記述内容の精細な注記・解題作成を行う。(3)占領期研究者との意見交換を通じて必要な情報を得る。
|