2021 Fiscal Year Research-status Report
成立期のドイツ緑の党における価値保守主義的潮流 日独比較市民社会史的視点から
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16K03105
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
中田 潤 茨城大学, 人文社会科学部, 教授 (40332548)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 価値保守主義 / 新しい社会運動 / エコロジー / 緑の党 / 左派オルタナティブ / 市民社会 / ドイツ / 協同主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、緑のリスト・環境保護および成立期の緑の党の党員ならび支持者の実像の解明を目的として研究を進めた。その成果を論文 「緑のリスト・環境保護/緑の党の党員・支持者とはのような人々だったのか?」としてまとめた. 。 本論文では、緑の党およびその前身と言えるGLUの党員・支持者の構成について分析を行った。その際に二つの観点から分析を進めた。その第一はGLUの党員・支持者の個人の属性への着目である。そこでは年齢構成・性別・職業等などの指標を用いて、党員・支持者の特徴を描き出した。もう一つの視点は、支持者・党員個人ではなく、彼らが生み出していた社会的結合関係に着目した。 GLUの支持者は、年齢的には他の既成政党の支持者と比較して二〇代・三〇代の割合が極めて高く、また女性の割合が高いという特徴があった。また職業構成の面で言えば、無職者層が最大集団を構成しており、それは具体的には学生、主婦そして年金生活者から構成されていた。それに続く職業集団は公務員であり、その中でも教員の占める割合が高かった。 また都市(この場合、具体的にはハノーファー)内おいて、おおよそ数百メートルの範囲内に居住する住民によって形成されている生活コミュニティの存在を指摘した。彼らは日常的にカフェやレストラン、そしてお互いの住宅内(中庭)などを交流の空間としていた。本章では、候補者推薦名簿の分析を通して、こうした都市内の生活コミュニティが、まるごとGLUの支援者のネットワークとして機能している例を数多く指摘した。またGLUの支持者の生活コミュニティは、都市内においても中間層の比率が高い地域、および大学エリアに比較的集中していることが明らかになった。こうした近隣の生活コミュニティと並んで、家族というネットワークおよび高齢者のネットワークが、GLUの支持拡大にとって重要な役割を果たしていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
緑の党はとりわけ対象となる時期について言えば、党中央の組織的・財政的な統制力が弱く、その結果として党地方組織の独自性が想像以上に強い組織である ことが明らかになった。そのため、研究の力点を党中央よりも個別の地方組織の方にややシフトさせながら研究を進めている。より具体的には、引き続きニーダーザクセン州に焦点を定めながら、環境保護勢力の結集に向けた動きについて分析している。より具体的に言うならば、ニーダーザクセン州 において環境保護を目標に掲げる政治勢力としてGLU、AUD、GAZなどが存在していた。彼らは互いに競合関係にあったが、1979年に初めて実施されることになっ たヨーロッパ議会選挙を機会に、共同戦線を張る議論が持ち上がることになった。作成された共同の選挙リストは、本来ヨーロッパ議会選挙のみに向けた一時的 なものになるはずであったが、その後控えていた連邦議会選挙に向けてこのリストを全国政党の土台とすることを目指す動きが起こる。これは結果的に1980年の 緑の党の設立へと繋がっていくわけであるが、今後はヨーロッパ議会選挙に向けた選挙連合形成から緑の党の成立のプロセスを上記の文書館等で収集した一次史料に基づきながら再構成していく予定である。 さらにニーダーザクセン州は、こうした環境政党結成の動きという観点において時間的に見れば他の連邦州に先んじていた.それゆえに他の連邦州で同様の組織が結成される際に、それに対して一定程度の影響を及ぼす立場にあった。 さらなる研究を進展させるための資料収集活動を本年度は十分に実施することができず、研究の進捗について若干遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
緑の党はとりわけ対象となる時期について言えば、党中央の組織的・財政的な統制力が弱く、その結果として党地方組織の独自性が想像以上に強い組織である ことが明らかになった。そのため、研究の力点を党中央よりも個別の地方組織の方にややシフトさせながら研究を進めている。 来年度は、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州・ヘッセン州、そしてさらなる研究の展開を視野に入れながら、ハンブルク州、 バーデン・ヴュルテムベルク州での状況を解明していく予定である。この作業を終えることにより、本研究課題は当初の目標を達成できる予定である。
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Causes of Carryover |
(理由): 年度内にドイツでの史料調査を計画していたが、コロナ関連の諸事情のために実施に移すことができず、2022年度に調査を持ち越さざるを得なかっ た。そのため予算の執行を次年度に繰り越すことにした。 (使用計画): ニーダーザクセン州におけるGLUの結成と緑の党への移行のプロセスを再構成するために必要な史料が、ベルリンにあるハインリヒ・ベル財団 文書館、ハンブルク社会問題研究所、ニーダーザクセン州立中央文書館、ゴアレーベン文書館等に所蔵されている.これらの文書館・図書館で史料収集を行うた めに、海外調査を行う予定である。
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