2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K03115
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
槇原 茂 島根大学, 学術研究院教育学系, 教授 (00209412)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 近現代フランス / 共有地 / 共同地 / コモンズ / 農村 / 公共性 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、成果の一端を公表する段にいたったものの、本研究の中心課題としている20世紀前半フランスの共有地(今後「共同地」の訳語に替える)の実状にはなかなか接近できないままであった。現在までのところ、共有地研究の第一人者であるナディーヌ・ヴィヴィエが大革命から第一次世界大戦までの共有地の歴史を適確にまとめた論考を訳出し、氏の了解の下、解題を付して雑誌『史学研究』に掲載予定であるほか、共同放牧慣行に関しては、コミューン間入会権の廃止、共同放牧権の実質的な廃止を定めた1889年7月9日法、これを修正した1890年6月22日法の制定経緯と地方の反応に関する考察をまとめ、学会発表を予定している。これらを踏まえて、20世紀前半のフランシュ=コンテ地方、ドゥー県のチーズ製造組合と共有地、共同放牧権の関係をできるだけ速やかに解明し、成果を公表する。 また具体事例として、共同放牧慣行vaine patureの歴史に取り組んでいる。このテーマに関しては、日本において本格的な研究は皆無と言ってよく、用語の理解や的確な訳語の選定にも取り組まなくてはならなかった。研究を進めるうちに、共有地と同様、共同放牧の慣行もまた、フランシュ=コンテ地方などフランス東部、及び北部を中心に存続してきたことがわかってきた。19世紀末に新たな法的規制を受けながらも、多くの町村(コミューン)で維持されつづけた。1年間延長した研究期間においては、共有地・共同放牧の歴史と20世紀のチーズ製造組合との関連性について検証を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
日仏両国でカバーしなくてはならない先行研究の範囲が予想していた以上に拡がっており、とくに共有地の歴史と密接な関係にあった共同体的諸慣行の歴史を跡づけるのに多くの時間を要することになった。また、日本でも社会科学諸分野で関心の高まりつつあるコモンズ論の新しい動向も摂取し、歴史学における共有地・共同体的慣行の研究史との接点を見いだすよう努めている。両者の間には、私的所有権が全般的に保障された社会のなかで、これと緊張関係を生じさせながらも、共有すること・共同することの「価値」が今日まで認められ続けてきたことの意味を問い直そうとする点で共通点を見出せる。今後「公共性」の問題と照らし合わせながら、両者の架橋についても考察していく。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究・調査を踏まえて、(1)フランシュ=コンテ地方の共有地、共同放牧の存続と当地のチーズ製造組合経営との関係を明らかにし、成果を公表する。(2)社会科学諸分野で論じられているコモンズ論と本研究を接続する可能性について検討し、歴史学界だけでなく、社会学や経済学、農学など隣接諸分野にも成果を伝えていく。
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Causes of Carryover |
平成30年3月の現地調査で研究課題に関わる重要な資料が見つかった。この資料の読解と分析を鋭意進めてきたが、さらに追加の期間を要することになった。また、本年6月に高知県で開催される学会で研究成果の一端を発表するため。
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Research Products
(4 results)