2016 Fiscal Year Research-status Report
神津島産黒曜石が示す後期旧石器時代初頭の海洋適応と現生人類の行動能力
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16K03165
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
池谷 信之 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員 (80596106)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 蛍光X線分析 / 神津島産黒曜石 / 現生人類 / 海上渡航 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.「国際黒曜石会議への参加」 5月1日から5月3日にかけて、イタリア・リパリ島で開催された「international Obsidian Conference」に参加し、後期旧石器時代初期における神津島産黒曜石の重要性と、現生人類の海上渡航に関する研究の到達点と課題について発表した。 2.「3万年前の航海再現プロジェクトへの参加」 海部陽介(国立科学博物館)をリーダーとする同プロジェクトは、7月17日から18日にかけて与那国島-西表島間の実験航海を実施した。池谷は2011年のプロジェクトのスタート当時からのメンバーであり、今年も与那国島に滞在し葦舟造りと航海のトレーニングに10日間に渡って参加した。 3.「中部・関東地方における神津島産黒曜石出土事例の収集」 神津島産黒曜石の主要な出土地である静岡東部については、この研究の開始以前にすべての出土事例を把握していた。本年度は、出土遺物に神津島産黒曜石が含まれている可能性がある中部地方南部・関東地方について、既に文化財報告書が刊行されているものについては、その文献を収集し、未報告あるいは産地推定未実施のものについては、その情報を集めた。 4.「東京都内旧石器遺跡を対象とした黒曜石産地推定」 静岡東部以外で神津島産黒曜石が含まれている可能性が高いのは、神奈川県・東京都内であることから、今年度は東京都世田谷区田直遺跡、同府中市武蔵台遺跡、三鷹市北野遺跡、練馬区比丘尼橋遺跡の産地推定を実施した。総分析点数は約540点である。これまで神津島産黒曜石は、旧石器時代初頭(南関東地方ではⅩ~Ⅸ層・台形様石器盛行期)と終末(細石器段階)を中心に搬入されており、その間は断絶するのではとされていた。しかし、今回の分析によって量こそ少ないもの、その間(Ⅶ層~Ⅳ層・ナイフ形石器盛行期)にも一定量が存在する可能性が浮上した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究申請時の平成28年度の目標は、1.神津島産黒曜石研究の到達点の海外への発信、2、蛍光X線分析による黒曜石原産地推定の実施、3.中性子放射化分析による検証結果の公表であった。このうち、1についてはイタリアのリパリで開催された「international Obsidian Conference」において研究発表した。2については東京都内の4遺跡540点について産地推定を実施することができた。3については中性子放射化分析の実施者である ミズーリ大学考古分析科学研究所のMichael D. Glascockとの共著で「Identification of Kozushima Island obsidian at the Early Upper Paleolithc Japan by EDXRF and NAA」と題する論文を完成させた。現在、投稿に向けて英文と図表のチェックをしている。したがって、当初目標のほとんどを達成したと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究が順調に進行していることから、基本的には申請時の計画にしたがって、今後の研究を進めていく。平成29年度に重点的に研究を進めるのは以下の2点についてである。1.「神津島産黒曜石の地質学的検証」神津島産黒曜石は神津島火山の噴出物であるが、先駆的な試みを除けば体系的な火山学的研究がほとんど行われていない。こうした状況もあって、国内には、「伊豆・箱根のどこかに神津島とそっくりな黒曜石産地が隠れているのではないか」という意見もなお存在する。そこで本年度は以下の方法により、火山学的体系に神津島産黒曜石を位置づけ、産地推定の信頼性の向上に努める。神津島火山は隣接する式根島火山・新島火山とともに流紋岩質の火山列を形成している。この火山列は、伊豆半島の火山とともに「富士箱根火山帯」に属しており、そのマグマの生成プロセスは、平行して走る太平洋プレート西側境界からの相対的な距離によって理解できるとされている。したがって、その境界からより近い神津島などの火山列の化学組成と、比較的距離がある伊豆・箱根火山の化学組成は、異なったマグマのトレンド(化学組成変化の方向性)上にある可能性が高く、池谷の原産地判別図上でも神津島産黒曜石と天城産・箱根産黒曜石はかなり離れた位置にプロットされている。新年度は神津島火山列と伊豆・箱根の火山から、それぞれ黒曜石を含む流紋岩を採取し、蛍光X線分析装置によってそれらの化学組成を明らかにするとともに、通常は黒曜石産地推定に用いている判別図にプロットし、神津島火山は伊豆・箱根の火山とは異なったマグマのトレンド上に位置づけられることを明確にしたい。 2.「黒曜石産地推定の継続」神津島産黒曜石が含まれている可能性がある東京都内の旧石器時代遺跡については、分析が順調に進行したため、新年度は主に長野県南東部の旧石器時代遺跡を対象として産地推定を実施する。
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Causes of Carryover |
手作業による図化が難しい遺跡出土黒曜石原石の3D画像化委託と、沖縄県立博物館で開催されていた特別展「港川人とその時代」の見学と人類遺跡巡検のために、200,000円を前倒し請求した。このうち3D画像化委託については、黒曜石を撮影した際に生じるハレーションのデジタルデータ上での除去という問題が解消しなかったため、実施できなかった。次年度使用額(52,000円)が生じたのはこのためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
黒曜石原石の3D画像化は、申請時の平成29年度予算にも200,000円が計上されており、次年度使用額と併せて新年度に改めて執行する予定である。撮影時のハレーションの問題は、撮影台を覆うスクリーンの改良によって解決する見込みである。
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Research Products
(3 results)