2017 Fiscal Year Research-status Report
レプリカ法によるウクライナ新石器~金石併用時代の栽培穀物の検出と出現期の解明
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16K03166
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
遠藤 英子 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員 (60766947)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
那須 浩郎 岡山理科大学, 生物地球学部, 准教授 (60390704)
山田 昌功 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員 (00620387) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ウクライナ / 栽培穀物 / 農耕の拡散 / レプリカ法 / Trypillia文化 / キビ / Chinese millet / Food globalization |
Outline of Annual Research Achievements |
29年度はキエフで4月9日~16日と、9月3日~10日の2回のレプリカ法調査を実施し、採取したレプリカを持ち帰り検鏡、撮影、研究分担者の那須浩郎を中心に種子同定作業を行った。事前には、海外共同研究者のウクライナ国立アカデミー考古学研究所のDr.Yanevich、Dr.Gaskevychや、Borys Grinchenko Kyiv UniversityのDr.Videikoが対象資料の選定、圧痕検出作業を継続して実施し調査に備えてくれており、現地調査を円滑、効率的に行うことが出来た。 調査結果としては、昨年度も含めてすでに新石器時代25遺跡で8000点以上の土器を対象にレプリカ法調査を実施してきたが栽培穀物はまったく同定されず、先行研究で6000BCを遡るとされてきたウクライナの農耕開始については、再検討が必要と思われる。 一方でTrypillia 文化期に入ると、Trypilia A期からTrypilia C期までの遺跡でオオムギやコムギが検出され、Trypillia期を通じて西アジア起源の農耕が定着していたものと考えられる。 また東アジアで栽培化された雑穀のヨーロッパへの拡散時期やルートを明確にするうえで、ウクライナの雑穀の出現期は重要であるが、今回の調査で後期青銅器時代の資料からキビを多量に同定しており、残りの研究期間中に出現期がどれほど遡るのかを確認したい。 今回の研究プロジェクトにより、レプリカ法という日本で開発され普及している種子検出手法が、欧米の植物考古学にも有効で、これまで不足していた確実性の高いデータの蓄積に貢献できることが確認でき、今後の研究の広がりが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
プロジェクト2年目となり、ウクライナ側の共同研究者にも本研究の目的や手法がよく理解され、現地調査も短い期間ながら充実した調査が実施できている。なかでも最も時間を要する土器圧痕の検出作業に現地研究者らが熟練してくれており、おかげで大量の資料の調査が可能となった。したがって研究はおおむね順調に進展していると思われる。 ウクライナにおける東アジア起源の雑穀の出現期は、ユーラシアの東西農耕拡散のキーポイントであり、本研究のテーマでもあるが、今回後期青銅器時代資料から多くのキビを同定できたことは大きな成果と考える。この結果はヨーロッパ各地のキビ出現期ともおおむね整合的である。ウクライナの先行研究でキビ出現期とされる金石併用時代末のUsatovo 文化期の資料からは現状ではキビは検出できておらず、最終年度はウクライナのキビがどれほど遡るか、前期~中期青銅器時代資料の調査を実施してキビ出現期を絞り込みたい。 また今回レプリカ法調査を実施した後期青銅器時代のNovokyivka siteの調査結果では、西アジア起源のムギ類は2点に留まり、同定栽培穀物中キビの占める割合が90%以上と、栽培穀物の割合に大きな変化が看取された。このような後期青銅器時代遺跡でのキビへの集中は、南チロル地方やハンガリーなど他のヨーロッパの遺跡でも報告されており、このような傾向が当該期の穀物栽培の特徴であるのか、特異な例であるのかを検討するうえで、他の遺跡でのデータの蓄積が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度にあたり、2018年8月にはキエフに共同研究者が参集して、各自の成果を発表し、互いに評価し、成果の公表に向けて議論するワークショップ「Ukraine as the crossroad of Agriculture across Eurasia(ウクライナ:ユーラシア農耕の十字路)」を開催予定である。 この結果を踏まえて、なるべく早く国際査読誌への投稿(Vegetation History and Archaeobotanyを予定) を準備したい。また2019年7月にはイタリアで開催される第18回国際植物考古学者会議での研究発表を予定している。 最終年の具体的な研究プランとしては、キビの出現期の絞り込み、地域的拡がりの確認、栽培穀物中に占める割合の変化などを、データを蓄積して分析していくことであるが、レプリカ法データのみからの検討には限界もあるため、炭化大型植物遺体や同位体分析などのデータとも擦り合わせながら多角的に検討を行いたい。 またウクライナの土器編年にはいまだ揺らぎがあり、種子圧痕を検出した土器の編年を援用した種子の時期比定が難しいため、今年度は年代測定・同位体研究の國木田大に研究分担者として加わってもらい、同定した種子の帰属年代を明らかとするべく、土器胎土の直接の年代測定など新たな取り組みを実施予定である。 また日本で開発されたレプリカ法の海外への紹介と普及も本研究のもうひとつのテーマであったが、ウクライナ以外でも隣国ベラルーシの研究者が自らの手でレプリカを採取、日本でのSEMによる検鏡、撮影、ベラルーシに戻して現地レファレンスによる種子同定という流れができあがり、不足していた栽培穀物データが蓄積されつつある。今後もこのような研究の広がりを目指し、面的なデータの蓄積とそこからの分析を実施したい。
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Causes of Carryover |
本年度はおおよそ研究計画に沿って予算を執行したが、前年度からの繰り越し分により次年度使用額が生じた。これについては次年度有効に活用したい。
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Research Products
(3 results)