2018 Fiscal Year Research-status Report
現代日本における終末期の村(ムラ)と新たな地域の形成
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16K03202
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
松尾 容孝 専修大学, 文学部, 教授 (20199764)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 地域 / アイデンティティ / ソーシャル・キャピタル / 過疎 / グローバリゼーション / 地域振興 |
Outline of Annual Research Achievements |
終末期の村(ムラ)と新たな地域の形成について、次の4つの調査・研究を行った。第一は、農業生産と加工・流通による優良産地の形成およびこれを重要な要素とする観光地の育成を、長野県(塩尻市・東御市・高山村)のぶどう生産とワイン製造地域を対象に、調査・分析した。この分析は現在継続中である。 第二は、海運交易が隆盛し、近代的実業家を輩出した北陸日本海の港町・海村を対象にした、集落の特色、二層の地域間関係の研究である。この研究は、寺社等を重要な要素とする地域構造を成熟させた後、事業者の他地域や高次中心地への転出など大きな地域変動を経て今日に至っており、地域のドラスティックな動態を見せている。江戸時代から明治前期の海運交易を中心とした研究史に関して、「前近代北陸の海村・港町が織りなす地域」と題してとりまとめた(松尾容孝編『アクション・グループと地域・場所の形成』専修大学出版局、2019所収。145-193頁)。 第三は、東京大都市圏の日常的な影響下にある東京都西多摩郡や埼玉県の過疎地域における地域振興活動や千葉県の農山村の地域変化を調査した。農林業経済活動を一要素とし、全体としては社会・文化的なムラの再編により重点をおいたこの分析は、現在継続中である。 第四は、今日の日本における育成林業の衰退・再編のなかにおける先進林業地域の展開動向と新たな林業・林野経済活動の隆盛について、前者は奈良県吉野郡、後者は岩手県を主対象にして、調査・分析した。これに関しては、「日本林業の衰退・再編と地域・アイデンティティの模索」と題して取りまとめた(松尾編2019所収。297-336頁)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2018年度、本研究のテーマに関連深い内容の共同研究の成果を、松尾容孝編『アクション・グループと地域・場所の形成』専修大学出版局、2019として刊行した。本科学研究費課題の成果に該当する章2つと、地域に関する研究動向をとりまとめた章の計3章の執筆、6名の研究成果を踏まえた「はしがき」「あとがき」を付してまとめる作業に、2018年度、多くの時間を要した。そのため、本科学研究費テーマの文献渉猟や現地調査が不十分になり、2019年度に持ち越すことになった。 具体的には、「研究実績の概要」欄に記した長野県のぶどう生産とワイン製造を核にした観光地形成の現地調査と、東京大都市圏縁辺部の過疎農山村の地域振興と地域変化の現地調査が途中段階までの調査にとどまった。 本研究の進捗が遅れた別の理由として、以前なら資料の入手が比較的容易に可能であったムラの調査・分析に有用な史資料の閲覧・複写等が困難になっている点がある。具体的には、地籍図、部落有林野の関係資料(地籍図のほか、森林簿、森林計画図)、村々に所在する寺社の管理・運営に関する資料(各県の神社誌、諸宗派の各地寺院の名簿や、それらを掲載した資料)が、法務局、都道府県担当課等によって、高額の対価の設定や、閲覧禁止の対応等によって、調査困難になっている。そのため、ムラの寺社管理、部落有林野管理の継続実態・再編状況に関して、各地の刊行資料・機関資料による広域比較調査が非常に困難になっている。
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Strategy for Future Research Activity |
経済指標に則した調査・研究では、長野県(塩尻市・東御市・高山村)のぶどう生産とワイン製造地域を対象に、農業生産と加工・流通による優良産地の形成およびこれを重要な要素とする観光地域の形成を継続して取りまとめる。 社会・文化指標を核とした調査・研究では、経済指標も重要な要素となる場合が多いが、次の2つに取り組む。一つは、北陸日本海の港町・海村を対象に、特色ある集落や二層の地域間関係(地域中心と背域、広域)の歴史的形成の後、事業者の他地域や高次中心地への進出を経て生じている地域変動やこれらの歴史的事実を利用した地域振興である。もう一つは、東京大都市圏の日常的な影響下にある東京都西多摩郡や埼玉県の過疎地域における地域振興活動や千葉県の農山村の地域変化である。 以上は、本研究におけるこれまでの現地調査を継続する内容である。それとともに、上記の「理由」欄に記した史資料閲覧の制約のため、対象地域を県エリア程度に限定する必要があるが、ムラの物的基盤に関して、寺社の管理と部落有林野の管理の実態、ムラの社会関係に関して、住民・イエの生活活動領域の変化と本家・分家、内外の友人・機関等との紐帯の実態に関して、それぞれ史資料分析と現地調査により、新たな地域の展開動向を明らかにする。 本研究は村落を対象にしているが、都市域における類似した現象との対比、および国際的な状況から見た日本の位置づけについても、視野を深める研究としたい。成果の公表や今後の研究の展望にむけて、このことに留意する。
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Causes of Carryover |
本研究課題に関連が深い書籍、松尾容孝編(2019)『アクション・グループと地域・場所の形成-アイデンティティの模索-』の2018年度内の執筆・刊行に時間をとられて、本研究での現地調査の一部が2018年度に行えなかった。 調査内容により、市町村役場・教育委員会等に対して区長(総代)の一覧の提供、区長への依頼の仲介を行うが、これらを受けない市町村等が増えている。そのため、事前に調査時の訪問先を特定できず、また住民や地区全体の状況を把握する調査が困難になっている。同じく、ムラが維持管理してきた寺社や部落有林野に対しても、都道府県・市町村や県神社庁、宗派別寺院組織等の機関が資料提供を行わない場合が一般化している。以前は市町村誌史類や地域史等の著作にこれらの情報が掲載されていたにもかかわらず、現状との比較考察が行えない。そのため、現地調査により足がかりを作って、調査を継続することができず、既存資料・文献の整理分析が主となり、予定した現地調査の執行を行わなかった。 おもに上記の2点のため、執行額が予定執行額より少なくなり、研究の進捗も予定より進行が遅れた。そのようななかで現地調査を進めている数地域に関しては、元来予定した詳細な研究を進展させうる可能性が高いので、2019年度は現地調査の進捗・遂行、および現在の資料の入手による新旧の寺社・部落有林野・生活活動の比較の調査などに使用する計画である。
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