2017 Fiscal Year Research-status Report
民俗芸能における共同的創造のプロセスに関する実証的研究
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16K03232
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
俵木 悟 成城大学, 文芸学部, 准教授 (30356274)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 民俗学 / 民俗芸能 / 創造性 / アート / 神楽 / 無形文化遺産 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、一般理論研究に関しては、前年度に収集した論文等を読み込んだ。とくにアメリカ民俗学における個の創造性への着目に対して、ヨーロッパの民俗学に集合的創造(collective creation)に関する議論の展開があることがわかった(ヴァルディマル・ハフステイン、レギナ・ベンディックス等)。 実証的調査研究に関しては、岡山県の備中神楽に関して成果があった。若い神楽太夫たちが行っている稀少演目の復活上演や神楽を広めるための活動は、電子メディア上でのやりとりも含む共同的創造の様相として捉えることが可能であり、その一端について他の研究課題のテーマとも関連させて一編の論考を著し、来年度に刊行される予定である。 また必ずしも本研究課題の期間中の調査に基づくものではないが、以前の調査成果を本研究課題のテーマに沿った問題設定も踏まえて新たに論じた2本の論文が刊行された(業績①②)。さらに本研究課題の着想にいたる背景の一つであった国際的な無形文化遺産保護の取り組みについてこれまで論じてきた論考をまとめた単著を刊行した(業績③)。さらに、前年度に行った本研究課題の中心的テーマであるアートの民俗学的理解に関しての座談会の記録も刊行された(業績④)。総じて今年度は、本研究課題に関連してこれまで行ってきた業績の刊行という面で成果が多かった。
業績 ①「伝承の「舞台裏」─神楽の舞の構造に見る、演技を生み出す力とその伝えられ方」飯田卓編『文化遺産と生きる』(臨川書店、2017) ②「「正しい神楽」を求めて―備中神楽の内省的な伝承活動に関する考察―」『日本常民文化紀要』33(2018) ③『文化財/文化遺産としての民俗芸能―無形文化遺産時代の研究と保護』(勉誠出版、2018) ④小長谷英代・原聖・俵木悟・松本彰「特集討論「アート」:社会実践と文化政策」『文化人類学研究』18(2017)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度に、当初の計画を上回るアメリカ民俗学の研究成果の収集ができたので、平成29年度はそれらの読み込みと整理に重点を置いたが、その過程で共同的創造に関する理論研究は、他の分野、例えば音楽学、教育学、社会学などにおいても研究の蓄積があることが明らかになってきた。そのうち主要なものは日本語の翻訳書が出ているが、教育学分野での最新の成果についてはまだほとんど日本には紹介されていないようであり、今後、それらについての情報と資料の収集および分析を進める必要がある。 民俗芸能の創造過程に関する実証的調査研究に関して、岡山県の備中神楽については順調に調査が進み、本研究課題に資する情報も蓄積できている。鹿児島県いちき串木野市の大里七夕踊りについては、平成29年度は調査を実施したものの、踊り当日が雨天できわめて限定的な公開しか行われなかった。準備段階から含めて調査をしていたので、行事の中止に至る地元の人びとの一連の対応を知ることができたという意味では貴重だったが(当日に中止を決めたのは戦後初めてとのこと)、本研究課題に直接関わる情報収集という意味では限定的にならざるを得なかった。また島根県の石見神楽に関しては、調査を予定していた平成29年11月後半の週末に、本務校の業務や学会シンポジウムでの発表などが重なり、日程の都合上、調査が実施できなかった。 とくに予定していた現地調査に実現できなかったものがあることに鑑み、全体としての進捗を「やや遅れている」とした。ただし成果発表の点では、平成29年度に本研究課題に関連する論文を複数刊行し、同じく平成29年度に刊行した単著に収めた書き下ろしの論考も本研究課題に関連して収集した資料を活用したところが大きく、この面では期待以上の進捗であった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の当初の目標を果たすために、平成30年度はまず民俗芸能の共同的創造のプロセスに関する一般理論研究の成果を、研究ノート等にまとめて執筆することを目指す。また前述の通り、共同的創造に関わる研究成果の蓄積は、民俗学以外の分野においても見られるため、それらとの接合についてとくに意識して資料の収集と理論的な整理を行う。具体的には、音楽学におけるミュージッキング概念(クリストファー・スモール)などは、どちらかというとポピュラー音楽の分野において、産業資本やメディアとの関わりで注目されているが、歴史的・地理的なコンテクストが強く意識される民俗芸能の事例にいかに応用可能か、検討したい。 民俗芸能の創造過程に関する実証的調査研究に関しては、まず実地調査が遅れている島根県の石見神楽(もしくは広島県の芸北神楽)について平成30年度に最低1回の調査を実施する。この事例では、高校生を中心とする若者の参加がもたらす影響に注目する。また鹿児島県いちき串木野市の七夕踊については、平成29年度は前項に述べたような理由で限定的な公開になったこともあり、平成30年度も調査を行う。この事例は現在、少子高齢化を背景に大きな改革の行われている最中であり、またユネスコの無形文化遺産への登録に関わる問題も絡んでいることから、とくに社会の変化に対応する実演組織や伝統的規範の再編について注目する。最も調査が進んでいる備中神楽に関しては、平成29年度に複数の成果を刊行することができたが、現時点で最も有効な情報収集が進められている事例であるので、引き続き調査を進め、演技や演出の改変・創出という実演レベルでの共同的創造のプロセスに注目する。
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Causes of Carryover |
平成29年度に予定していた島根県の石見神楽に関する現地調査が、本務校の業務および学会関連業務との日程の関連で実施できなかった。これについては平成30年度に一回の島根県(もしくは広島県)における現地調査を実施する。
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Research Products
(15 results)