2018 Fiscal Year Research-status Report
婚姻・家族を規律する規範内容に関する基本権ドグマーティクの比較研究
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16K03313
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Research Institution | Shitennoji University |
Principal Investigator |
春名 麻季 四天王寺大学, 経営学部, 准教授 (20582505)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 憲法 / 家族法 / ヨーロッパ人権法 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、本研究課題の最終年度に当たる年度ではあったが、研究代表者・春名の体調不良ならびに本務校での大学業務において大きな負担を強いられたために、本研究課題の最終的なまとめにまで至ることができず、その前段階での成果発表にとどまってしまった。すなわち、2016年度および2017年度において行った研究内容の公表とその成果発表ならびに本研究課題の日本における新たな問題発見の段階での研究活動にとどまっている。 まず、比較法的視点での研究内容として、ドイツの同性婚・生活パートナーシップの法状況に大きな進展を見せ、その制度化を前進させるきっかけとなった連邦憲法裁判所の2008年の第一法廷決定および2013年第一法廷判決についての概要を紹介する論文を公表するとともに、日本の家族法制に関する最高裁の近年の動向を示すいくつかの判例状況をまとめる報告を、欧州懐疑主義の傾向を強く見せているハンガリー・ブダペストにおいて行った。そして、21世紀に入ってからの日本の判例動向については大きく3つの特徴から区別することができ、その内容を比較法的視点の対象になるEUにおいて報告することで、問題に対するEU市民の反応を知ることができるとともに、新たに関連するヨーロッパ人権裁判所の判決の存在を知ることができた。また本研究課題に関連して性同一性障害者特例法に関する決定の内容を取り上げる最終的なまとめの準備段階までは到達することができた。そして、ハンガリー・ブダペストの国際交流基金日本文化センターでの報告内容については、日本語でではあるが、1つの論稿にまとめて本務校の学内紀要に掲載するために執筆した。 なお、本研究課題の最終的なまとめとして、2019年1月23日の最高裁第2小法廷決定を素材にEU人権法の現状との比較から、「個人の尊厳」原理、平等原則のあり方を取り上げる準備をしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題とともに研究活動全般に関しては、本務校内部での様々な事情、すなわち2017年度から研究代表者・春名の体調不良および学科内部での2016年度からの新たなコース設置による学内業務・担当講義の負担増から、やや遅れている状況にあったが、2018年度はできる限りその遅れをとり戻すよう努力を行った。ただ、1年以上にわたる研究活動の停滞から、本研究課題最終年度の2018年度でも、これまでの研究活動の遅れを完全に取り戻すことは困難であったために、最終報告の準備段階までにとどまってしまった。 そのような状況の下でも、これまでの研究成果については可能な限り公表するように努め、少なくともドイツ連邦憲法裁判所の判例の紹介論文は公表し、日本の法状況における研究課題関連の成果については2018年度最後となる2019年3月の段階で日本語の論文は準備した。なお、比較法的観点からの問題の整理およびその問題解決の指針を提示するための資料収集等は終えているが、年度最終に近い2019年1月23日に、最高裁が小法廷ではあるが、本研究課題に深く関連する性同一性障害者特例法に関する非常に消極的な形で憲法判断を下したことから、その問題点を含め、その決定内容を視野に入れた研究を取り入れることが必要になり、時間的にもその分析が十分に行えなかった。 本研究課題に関する研究環境が整った現在において、最終的な本研究のまとめは可及的速やかに行うとともに、今後の検討課題としての問題提起を行う予定にしている。なお、これまでの研究成果も、日本の平成時代の判例の問題点に関しては公表の準備を完了しており、2019年には「憲法上の権利」の保障としての家族制度の問題についての論稿を順次、公表する予定である。少なくとも、日本の最高裁判例の分析についての論稿1本については、2019年9月に公表されることになっている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、本研究課題に関する比較法的視点の内容を確定させるために、「私生活の尊重の権利」、「個人の尊厳」、「一般的平等原則」の観点で個人の性別変更についての規制を違法とした2017年4月のヨーロッパ人権裁判所で下された判決の内容を、そのコメント・批評とともに精査することにする。その判決は、2008年からのドイツでの家族法制、戸籍法制における個人の性別・家族・婚姻のあり方に大きな影響を与え、同性婚や第三の性別の存在を法制度として承認する方向に導くことになった。それとの関連で、同時に全く正反対の方向で抵抗が予想されているヴィシュグラード4と呼ばれるポーランドやハンガリーの東欧諸国における「法の支配」原理と基本権保障の内容をまとめる研究を早急に行い、同様の方向での法的判断を下した日本の最高裁決定の憲法からみた是非を、本研究のまとめとして準備する。とりわけ、「一人ひとりの人格と個性の尊重という観点から各所において適切な対応がされる」との補足意見が付されながらも、「現時点では,憲法13条、14条1項に違反するものとはいえない」との結論で処理された2019年1月23日の最高裁決定について、これまでの最高裁の判例との関係で、憲法上、どのように位置づけて問題を論ずることができるのかという観点からの検討を進め、本研究のまとめとしての成果報告を可及的すみやかに執筆することを予定している。 とくに、これまでの日本の最高裁の対応として、立法裁量の統制方法としての対話形式での反応とは異なる現状容認型の決定について、今後、その態度に対してどのような対応が考え得るかの方向性を示しうる内容の検討を、本研究課題に対する成果として公表するように努める。
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Causes of Carryover |
2016年度および2017年度における諸般の事情(研究代表者・春名の体調不良および本務校学科での新たなコース設置に伴う大学業務および担当講義の負担増)による本研究課題への取り組みおよびその進展の遅れから、最終年度である2018年度1年間ではその遅れを完全に取り戻すことができなかった。その結果、2018年度で準備を済ませた本研究課題のまとめとしての成果を作成し、そのレヴューをするために、2019年度での本研究課題に関する使用額が生じた。 また、本研究課題の内容に密接に関連する最高裁の憲法判断が2019年1月23日に下されていることから、その内容の検討と、関連するEUおよびヨーロッパ人権条約についての比較法的視点からの資料収集のために、未使用額を2019年度に使用する必要性が生じた。なお、未使用額は、本研究成果を公表するための研究報告のための比較法対象国であるEU加盟国および東京での研究会への出張費、日本の最新判例およびヨーロッパ人権についての最新情報入手のための資料購入費に使用する。
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