2016 Fiscal Year Research-status Report
家族法学におけるドメスティック・バイオレンスの横断的研究
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16K03427
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
山口 亮子 京都産業大学, 法学部, 教授 (50293444)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ドメスティック・バイオレンス / ハーグ子奪取条約 / アメリカ法 / 児童虐待 / DV / 家族法 |
Outline of Annual Research Achievements |
ドメスティック・バイオレンス(DV)が、各事件の中でどのように影響しているかについて研究を行った。アメリカの児童虐待・ネグレクトの調査報告書によると、加害者にはDVがリスク要因となることが明らかにされている。2014年に死亡した146人の子の加害親はDVの加害者のみならず被害者であった。特にDV被害の影響で、子への身体的・精神的暴力、ネグレクトが誘発される場合がある。虐待後の親子再統合において、加害親のDV被害からの回復も視野に入れた取組みが必要であることが分かる。 ハーグ子奪取条約に関しては、子の返還の例外となる「重大な危険」の事由(13条1項(b))に、DVが妥当するか否かが議論されている。アメリカではDV被害者が「明白かつ確信を抱くに足る証拠」によりその事実を証明しなければならない。Van de Sandeケースは、夫が妻を壁まで追い込み頭を殴打したり、首を絞めたり、階段の上から押したりという執拗かつ深刻な暴力があり、子の面前で妻を言葉汚く罵ったり、子どもの1人を折檻したことが証明され、裁判所は返還を拒絶した。Walshケースは、妻の顔面、胸、すねを打撲させたり、歯を折る等の暴力を頻繁に働いていた夫が、以前裁判所からのDV保護命令に背き、妻子のいる自宅に侵入したことから、1審では条件付き(アンダーテイキング)返還を認めたが、控訴審は子が重大な危険に曝される危険性があるとして、その決定を差し戻した。DV対策を条件に返還を認めた例もあるが、アンダーテイキングは返還国へ条件を課すものであり、外国裁判所への押しつけとなることから、実効性の点でも有効であるかは疑問となっている。 DVには何より証拠と証明が鍵となる。一般に、親へのDVと子への加害は別物とされているため、DVがどのように子へ影響するのかについての証明を今後どのように構築をしていくかを検討していく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ドメスティック・バイオレンス(DV)要件が、家族法の各手続の中でどのように捉えられているかの研究成果として、初年度は、児童虐待手続について、「児童虐待に関するアメリカの法手続き―フロリダ州を例にして―」社会安全・警察学第3号1-14頁(2017)を、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」(以下、ハーグ子奪取条約)について、「アメリカにおけるハーグ条約の実務と監護権・面会交流」大谷美紀子・西谷祐子編著『ハーグ条約国内実施ガイド―子の奪い合い訴訟実務の考え方-』(法律文化社、2017年10月発行予定)の各論文を執筆・発表した。研究者は、アメリカ家族法と日本家族法の比較研究を行っているため、その比較の対象は、本研究においてもアメリカ法となる。 前者の研究については、過年度のアメリカ合衆国フロリダ州での児童虐待・ネグレクト裁判傍聴により知り得た知見を下に、全米の児童虐待・ネグレクト調査報告、および各州法、裁判例を調査し、日本の状況、法手続きと比較した。後者の研究については、アメリカにおけるハーグ子奪取条約マニュアル、各州法、判例法、およびハーグ子奪取条約判例データベース(INCADAT)による調査を行った。 実務に関しては、ワシントンDCの裁判所でDVの裁判傍聴を行ったが、これについてはまだ論文としてはまとめておらず、今後の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
DVが原因となっている事件(離婚事件、子の監護者決定、面会交流、少年事件等)を横断的に扱うアメリカのDV裁判所(Domestic Violence Court)と、子どもが関わる事件を統一的に扱うアメリカの統一家庭裁判所(Unified Family Court)の研究を行う予定である。DV裁判所は、刑事事件も含めて処理する裁判所であるが、研究の対象は、加害者への教育プログラムにも及んでいる。統一家庭裁判所は、子どもが関わる監護事件、虐待、少年非行も含めて総合的に1箇所の裁判所でなされるものであり、その特徴と問題点について調査を行う。 また、アメリカの裁判所の実態についてはもとより、日米の裁判例において、監護者決定、面会交流の決定・調整について、DV要件がどのように関わっていくのか、裁判前、裁判後に社会的にDV要件をどのように対処して子の利益を確保していくのかについても研究を行っていく予定である。
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Research Products
(4 results)
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[Presentation] 親権法改正要綱案2016
Author(s)
山口亮子
Organizer
日本家族<社会と法>学会
Place of Presentation
上智大学(東京都千代田区)
Year and Date
2016-11-05 – 2016-11-06
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