2016 Fiscal Year Research-status Report
公共政策の刷新と政府間関係の比較研究―タバコ規制政策を事例として
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16K03457
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山崎 幹根 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (30295373)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 公共政策 / 政府間関係 / タバコ規制政策 / イギリス / スコットランド |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、第一に、イギリスにおける政府間関係の動向についてスコットランドを中心に研究を行った。周知のとおり2015年6月に行われたイギリスのEU離脱を問う国民投票の結果、イギリス全体では離脱が多数となった一方、スコットランドでは残留が多数を占めるという結果になったことから、スコットランド独立が引き続き争点となった。こうした動向は改めて指摘するまでもなく、公共政策の形成および政府間関係に対して構造的な次元で影響を与える極めて重要な要因であることから、また、2016年スコットランド法による権限移譲や個別の公共政策よりも大きな関心を集めている政策課題であることから、引き続き以後の政治的展開を把握することに努めた。現在の時点では、スコットランド独立を問う2度目の住民投票を行うか否かについてイギリス政府とスコットランド政府との間でどのような決着が図られるかに関心が集まっている。 第二に、在外研究を終了し帰国後の今年度後期には、日本の国および地方自治体におけるタバコ規制政策の全体的な制度の特質を考察する作業を行った。現在、国レベルでは厚生労働省が健康増進法を改正し、イギリスで導入された規制と同様、屋内の原則禁煙化を進めようとしているものの、タバコ業界の影響力、タバコ業界を保護する政治家集団、そしてタバコ規制の影響力を懸念する中小飲食店業界らによる反対が強いなどの要因がイギリスとの相違を生じさせているものと考えられる。また、先進事例として2012年に制定された兵庫県の受動喫煙防止条例の制定過程に関する調査を行い、神奈川県条例との共通点、相違点を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一に、今年度の前半はスターリング大学において在外研究を行っており、その期間中、5月にスコットランド議会選挙が、6月にはEU離脱を問う国民投票が行われ、これらのキャンペーンを現地で調査するとともに、運動に携わった関係者や、研究者から直接、話を聞いたり、意見交換をする機会を得ることができたため、イギリス政治、スコットランド政治の動向を深く理解することが可能になった。特に、EU離脱を問う国民投票の結果が、イングランドとスコットランドとの間に差異を生じさせた政治的影響に今後も注目する必要性を認識した。 第二に、在外期間中、タバコの規制政策の日英比較を具体化する作業の一環として、在外研究機関において研究協力者であるポール・ケアニー教授と意見交換を行う機会を持ち、分析視角の設定、方法論、検討事例の設定のしかたなど多岐にわたる意見交換を行うことができた。特に、公共政策理論をどのように用いるかに関して共通の認識が形成されたことの成果は大きい。現在、ケアニー教授との共著論文の執筆作業に着手しており、成果の発信に努めている。 第三に、日本においても、先進的な地方自治体のみならず、国レベルにおいても厚生労働省が健康増進法の改正作業を具体化させたことによって、研究上意義のある立法過程、政治過程が顕在化し、本研究にも資する考察が容易になり、タバコ規制に関する政策過程に対する理解を深めることが可能になった。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、公共政策の形成および政府間関係に対して構造的な次元で大きな影響を与えることになるスコットランド独立問題に関して、イギリス政府とスコットランド政府の間で、どのような議論が展開され、問題が処理されるのか、政府間関係が安定的になるのかどうかについて、引き続き今後の政治的展開を把握することに努めることとする。 第二に、本研究の中心的検討事例である、2005 年にスコットランド議会が制定し、翌年に国会でも制定された公共空間における受動喫煙防止法の制定過程および、同法が全国に移転した政治過程を実証的に検討する。それとともに、現在に至るまでのイギリスにおける最新のタバコ規制政策の内容上の変化および垂直的、水平的な政府間への移転のメカニズムを考察する。 第三に、イギリスとの比較に留意しつつ、国レベルでの改正健康増進法の政治過程を把握し、考察するとともに、政府間関係の文脈において日本のタバコ規制政策の考察に本格的に着手する。その際、2010 年に全国で初めて施行された神奈川県の受動喫煙防止条例および、2013 年に施行された兵庫県の同条例の制定過程、2016年に市町村レベルで初めて同種の条例を導入した美唄市の事例を中心に検討する。
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Causes of Carryover |
今年度の研究においては、経費を効率的に執行することができたこと、さらには、研究計画作成当初に予想していた最新の権限移譲の動向を考察した文献・資料がイギリスにおいてそれほど刊行されなかったことから残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、先に説明したように、スコットランド独立の住民投票の実施をめぐる議論が高まり、イギリス政治、スコットランド政治に大きな変化が生じることが予想されることから、専門家らの研究が相次いで発表され、多くの文献・資料の刊行が予想されるため、これらに関する文献・資料の購入・複写に充当するとともに、スコットランド政治の現状およびタバコ規制政策を現地において調査するための経費として使用する予定である。
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