2017 Fiscal Year Research-status Report
公共政策の刷新と政府間関係の比較研究―タバコ規制政策を事例として
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16K03457
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山崎 幹根 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (30295373)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 公共政策 / 政府間関係 / タバコ規制政策 / イギリス / スコットランド / 条例 / 地方自治体 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、先ず、イギリスにおける研究として、2005 年にスコットランド議会が制定し、翌年に国会でも制定された公共空間における受動喫煙防止法の制定過程および、同法が全国政府レベルでどのように検討され、立法化に至ったのかを実証的に検討した。同時に、比較の観点から、日本における国レベルでの健康増進法・労働安全衛生法改正の過程と、2010 年に全国で初めて施行された神奈川県の受動喫煙防止条例および、2016年に市町村レベルで初めて同種の条例を導入した美唄市の事例を考察した。タバコの健康被害に関する科学的論拠の存在や国際条約の加盟という条件に関しては、イギリスと日本は共通した条件を有している一方、イギリスは先進国の中で最も規制が強い国であり、日本は最も緩い国であるという対照的な政策的帰結を生じさせている。全国レベルで顕在化したタバコ規制政策の差異は、権限移譲された政策能力を行使する地方政府が先進的な規制政策を導入するという政策刷新には共通性が見られ、相対化されることが確認された。 両国の政治過程の分析から、政策関与者・制度・ネットワーク・アイデア・社会経済的条件の要因に注目した考察を通じて、主要な政策決定者による受動喫煙の公衆衛生の政策課題としての認知、タバコ規制の経済的影響に対する認識、財務省および保健医療担当省の影響力、公衆衛生関係者およびタバコ産業の政治的な役割、中央政府に限定されない政策決定の場(超国家組織や地方政府が受動喫煙規制政策を強化する役割を果たしているか)に差異を生じさせることを明らかにした上で、両国の政策過程を取り巻く政策環境の相違がタバコ規制政策の差異を生じさせていると指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の中心的な課題であるイギリスおよび日本における受動喫煙規制政策の政治過程を実証的に検討する研究を行うとともに、その過程で、研究協力者であるポール・ケアニー教授と意見交換を行うことによって、証拠に基づいた政策決定の差異を検討するために、5つの要因に注目した考察を行うという、分析視角の設定および方法論を共有するに至った。そして、研究成果を、ケアニー教授と共著論文としてまとめる作業に取り組んだ。その後、本研究計画では、最終年度に予定していた研究成果の公表に関してイギリスの学術誌に投稿したところ、当初の予想以上に早く投稿論文が受理され、掲載が認められるに至った。このため、当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、タバコ規制政策の中でも、前年度まで行った公共空間における受動喫煙防止以外の政策の実施、他の政府への移転の状況について両国の動向を調査する。例えば、自動車内で青少年を同乗させる際の禁煙法や、展示販売の禁止、自動販売機での販売禁止、電子タバコの規制など、さまざまな規制政策がイングランド、スコットランドそれぞれの領域で実施されているが、これらの諸政策の形成過程および実施過程を公共空間の受動喫煙防止政策と比較しつつ検討する。さらに、比較の観点から、また、本研究を発展させるためにアルコールに対する規制政策の概要を補足的に調査する。 一方、日本では受動喫煙防止条例を制定している地方自治体は神奈川、兵庫県など少数に止まるが、引き続き、国レベルでの健康増進法改正の立法過程を把握するとともに、地方自治体レベルでは、新たに同様の条例を導入する自治体への政策移転の状況、および、地方自治体が受動喫煙防止政策に取り組む姿勢や、検討状況、実施に際しての課題をどのように認識しているかを実証的に検討する。
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Causes of Carryover |
今年度の研究においては、経費を効率的に執行することができたこと、さらには、スコットランド独立問題が、2017年6月の総選挙の結果、停滞したことから、当該テーマに関する最新の動向を扱った文献等が当初の予想よりも刊行されなかったことから残額が生じた。 次年度は、イギリスのEU離脱の基本方針が明らかになることから、イギリス政治、スコットランド政治にも大きな影響が及ぶことが予想され、これらの動向を分析するための文献・資料の購入・複写に充当するとともに、スコットランド政治の現状および規制政策を現地において調査するための経費として使用する予定である。
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Research Products
(1 results)