2016 Fiscal Year Research-status Report
EUにおける社会的排除とシティズンシップに関する研究
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16K03509
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
細井 優子 埼玉大学, 基盤教育研究センター, 准教授 (60638633)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | EU / 社会的排除 / シティズンシップ / 欧州市民社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、従来の法的地位や権利としてのEU市民権ではなく、誰を構成員とし、構成員にどのような責務と資質を求めるかという「実質的な」EUシティズンシップを考察することである。トランスナショナルな欧州市民社会での「実質的シティズンシップ」を考察するためには、社会的排除概念によって排除される人々と、彼らを包摂するための方向性を明らかにする必要がある。本研究では、政治学的理論とEUの事例を「排除の5類型」をもとに図表「EUにおける社会的排除とシティズンシップ」を作成することで、EUの実質的なシティズンシップを考察するための概念図を明らかにする。 初年度(平成28年度)の研究計画は、「EUにおける社会的排除の類型」を作成すべく、欧州市民社会において、誰がどのような基準で排除・包摂されているのかを明らかにすることであった。 「女性」や「移民」の置かれた立場を詳細に研究することにより市民の類型を細分化した。さらに、排除の基準である「労働市場へのアクセス」は賃金労働を重視するため、家事や介護などケアワーク(無賃労働)に従事する人々の存在や貧困の構図を可視化できていない点や、もう一方の排除の基準「政治へのアクセス」は参加民主主義的な「市民社会への参加」も含めるのが適切であることを明らかにした。それに関連して、マイノリティの共同体がホスト社会との交流を持ちにくいという多文化主義政策の弊害も浮き彫りにした。 研究を進めていく中で、「社会的排除」概念自体の曖昧さや多義性を再確認し、言説や概念の整理をする必要性を認識するにいたった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
【研究実績の概要】で記述したように、当初計画した項目についてはおおむね順調に研究を進めることができた。しかし研究を進めた結果、本研究の目的である「従来の法的地位や権利としてのEU市民権ではなく、誰を構成員として、構成員にどのような責務と資質を求めるかという『実質的な』EUシティズンシップを考察する」ためには、存在論的に「市民の類型」や「排除の基準」を調査・研究し可視化するだけでは不十分であることがわかった。 つまり、曖昧で多義的に使用されている「社会的排除」という概念自体を詳細に分析することが必要であり、海外文献を中心に「社会的排除」の言説を研究し、整理する作業が不可欠であることが新たにわかった。平成28年度内では、この部分の作業を完了するに至らなかったため、現在の進捗状況としては「やや遅れている」と判断せざるをえなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
【現在までの進捗状況】に記述した若干の遅れの原因は、研究内容上のものに加えて所属先する研究機関の変更や平成28年度の後半から始動したEUの助成金を受けた国際研究プロジェクトへの参加という外部的要因も大きく影響している。 しかし、現在では研究機関の変更も終え、以前よりも充実した研究環境に身を置くことができた。また新たな国際研究プロジェクトに関しても、研究を軌道に乗せることができたため以前より時間を取られることもなくなった。 したがって、効率的な時間の使い方と以前よりも拡大した研究資金や研究者ネットワークを活かしながら、平成28年度にやり残した作業を進めていく予定である。さらに、やり残した課題を含めた平成28年度の研究成果は、所属先の研究機関によるサポートにより公開講座や研究所紀要というかたちで発表させることがすでに確定している。
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