2019 Fiscal Year Research-status Report
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16K03525
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Research Institution | Hiroshima City University |
Principal Investigator |
沖村 理史 広島市立大学, 付置研究所, 教授 (50453197)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 気候変動問題 / 国際制度 / 実効性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の対象となるパリ協定が、2015年の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で定められて4年が経過した。パリ協定の詳細ルールの決定は、2018年に開催された国連気候変動枠組条約第24回締約国会議(COP24)まで交渉を継続することとされ、一部を除き合意が成立した。パリ協定交渉最終盤時に申請した本研究は、パリ協定の成立を前提とし、パリ合意の実効性と気候変動ガバナンスの変容に関する実証分析を研究目的として設定した。 2018年度は、パリ協定の詳細ルールの決定過程の調査に加え、パリ協定から脱退を表明したトランプ政権の動向と、アメリカの方向転換がパリ協定の実効性に与える影響の調査を行ったが、2019年度は、積み残しとなったパリ協定の一部の詳細ルールをめぐる国際交渉と、決定されたパリ協定の詳細ルールが気候変動政策に与える影響を評価するため、実態調査として国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)に参加し、国際交渉を参与観察するとともに、国レベルや企業レベルの気候変動政策についても情報収集に努めた。 その上で、本研究の最終前年度になる2019年度は、これまでに行ってきた実態調査を国際協定の実効性に関する先行研究を踏まえて分析した。研究目的として設定した二つのテーマについて、パリ協定の実効性についての検討成果は、2019年10月に開催された日本国際政治学会で報告し、気候変動ガバナンスの変容に関する実証分析は、論文にまとめ発表した。このように、現在国際社会で展開している気候変動ガバナンスの現状を国際関係論の側面から分析し、研究成果を発信している点で、社会的に重要な問題に対する学術的貢献を果たしており、社会的にも意義深い研究を実施できているといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、これまでに行ってきた、気候変動ガバナンスの成立経緯におけるパリ協定の位置づけの分析、およびパリ協定の実効性に大きな影響を与えているトランプ政権の気候変動外交の分析の二つの各論を踏まえ、パリ協定の実効性について検討を行った。その検討成果を、2019年10月に開催された日本国際政治学会で報告した。 また、12月に開催された国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)に参加し、事例分析に必要な情報収集に努めた。具体的には、2019年11月にトランプ政権がパリ協定からの脱退を正式に国連に通知したことを受けて、アメリカの脱退がパリ協定の実効性にどのように影響を与えるか、引き続き情報を収集したことに加え、残された課題となっていた市場メカニズムを含む国際協力メカニズムに関する実施ルールの制度設計に関して政府間交渉会議で議論されている内容を調査した。また、2020年に入ってからは、アメリカ大統領選挙における気候変動問題の議論についても調査を行い、大統領選挙後のアメリカのパリ協定に対する態度について予備的調査も開始した。 このように、パリ協定の実効性を検討する上で、気候変動ガバナンスの変容の状況について、国際社会の動きを詳細かつ多様な観点から調査した。その上、これまでの研究成果を日本国際政治学会で発表し、他の専門家と討議するなど、本研究の申請時に示した研究計画の予定通りの内容を実行することができているため、おおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度となる2020年度も、これまでに引き続き、気候変動ガバナンスの制度設計の行方をその最前線で調査すると共に、国連気候変動枠組条約締約国会議に参加している多様なステークホルダーの主張に関する情報収集を行う。また、同時並行して、これまでの調査・研究を踏まえ、パリ協定の実効性について評価分析を行い、最終見解をまとめる予定である。 2020年度は、新型コロナウイルス対応で開催時期が延期された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)に可能であれば参加し、パリ協定の詳細ルールの制度設計を取材したい。ただし、現時点は延期された会議が2020年度内に開催されるか未定であり、今後の研究計画に大きな影響を影響を与える。仮に年度内に会議が開催されたら、国際交渉の現場で、パリ協定によって各国・各地方自治体、各ステークホルダーの気候変動政策がどの程度進展しているのか、聞き取り調査を行う予定である。また、同時並行して気候変動ガバナンスや国内、地域レベルでの気候変動政策決定過程に関する文献調査、およびパリ協定脱退を通告したアメリカが大統領選挙を経てどのように政策を継続/変更するのかについても調査を行う。その上で、これまでの研究を踏まえた国連気候変動枠組条約体制の実効性について、最終見解を論文としてまとめる予定である。したがって、研究費の多くは旅費に用いられ、一部は文献調査に必要な書籍、論文購入に充てる予定であるが、締約国会議の開催時期によっては、研究期間の延長も含め、予定を変更する可能性がある。
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Causes of Carryover |
2019年度予算で現地調査のため参加することとしていた国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)は、当初南米のチリで開催が予定され、高額な旅費による予算不足が懸念されることから、2019年度予算も前半は意図的に執行を抑制した。チリで開催予定であったCOP25は、現地の政情不安のため急遽スペインに開催地が変更となり、フライトのキャンセル料や新たな航空機チケットの手配など、当初見積もっていた海外旅費の予算枠を上回る経費がかかった。この海外旅費の経費増大は、最終的に2018年度と2019年度の執行抑制分でまかなえた。さらに2019年度後半に購入を予定していた図書等が新型コロナウィルス対応の余波で購入できずその分の執行が抑制された。これらの理由から生じた次年度使用額は、2020年度の調査研究で執行される。本研究は、基金によって行われているため、このような外的条件の変化にも柔軟に対応することができ、複数年度にわたる研究計画を遂行する上で大変ありがたく感じている。
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Research Products
(2 results)