2017 Fiscal Year Research-status Report
国際経済秩序と平和に関するカール・ポランニーの制度主義的アプローチの展開
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16K03577
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
若森 みどり 大阪市立大学, 大学院経済学研究科, 教授 (20347264)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 二重運動 / 国際経済秩序 / 自由のための国際計画 / 制度主義的アプローチ / 経済思想史の方法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、普通の人びとの暮らしや雇用、地球環境、社会の安定に破壊的な影響を及ぼしているグローバル市場経済を批判する思想的・理論的な拠り所として世界的に注目されている、主著『大転換』(1944)を中心としたカール・ポランニー(1886-1964)の経済思想の全体像を視野に入れながら、また、近年急速に発展しつつあるポランニー研究の国際的動向と連携しながら、特に今なおポランニー研究の未開拓の領域となっている「国際経済秩序と平和」に関する考え方とその分析方法の形成と発展を知的・思想的源泉にまで立ち入って明らかにする。そして、19世紀的市場社会の批判者としての彼の経済思想が、市場経済のグローバル化が進む冷戦崩壊後の世界状況を捉えるための理論的枠組みとしていかなる意義を有するのか、検討しようとするものである。 平成29年度は、アジアで初めて開催される第14回カール・ポランニー国際会議に関連する研究交流を組織したり、ポランニーに関連したシンポジウムを実施したりするなど、東京、大阪、ソウルにおいて、(1)ドイツ、カナダ、韓国、日本の研究者たちと最新のポランニー研究の動向について意見交換を行う(カール・ポランニー政治経済研究所(モントリオール)とポランニー研究所(アジア)の両所長の講演企画、第14回カール・ポランニー国際会議への参加)、(2)最新のポランニー研究の成果を踏まえた論文執筆や報告などを行う(国学院大学公開研究会での報告)、(3)ポランニーに関心を持つ多様な立場の人々、とりわけ社会的連帯経済に関わる実践家や人類学者、欧州研究者との知的交流の機会を作り、ポランニーの現代的意義や研究の多様な方向性について意見交換をし、ポランニー研究を豊かにする仕掛けを作る(ポランニーと欧州関連シンポジウムの企画)、(4)これらの企画を進める過程でポランニー研究協力者に出会った、などの成果を得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の計画や方法の概要として、ポランニーの全体像との関連において「国際的経済秩序と平和」の問題を究明することを意図している本研究の計画の概要として、(1)内外の研究者と連携して意見を交換し、ポランニー研究の国際的な潮流にかかわっていく、(2)学際的、かつ実践的な側面から、ポランニー研究に関する共同研究の場を構築し、研究を進展・普及させていくことを、重視していた。平成29年度は、これらの点に関して重要な成果が得られたと考える。 平成29年初頭に韓国で、拙著『カール・ポランニーの経済学入門――ポスト新自由主義時代の思想』(平凡社新書、2015年)が翻訳された。同書は、韓国でのここ数年来のポランニー研究の急速な進展(ポランニーの重要文献の翻訳、普及)の一環であり、第14回カール・ポランニー国際会議(於ソウル市長舎)では、多くの読者とポランニーにおける擬制商品論、民主主義と自由に関する独特の考え方、協同組合運動への高評価、ルソーの市民論、アリストテレスの良き生、負債論で著名な人類学者D.グレーバーとの関連性など、多岐にわたる論点について、議論する機会に恵まれた。 また、ポランニーの現代的意義をめぐっては、欧州危機をめぐるポランニーの国際経済秩序を分析する視点と方法について、東欧の研究者や欧州の人権問題に詳しい研究者、欧州環境政策を専攻している研究者、社会的連帯経済の活動家と連携している研究者、労働問題に詳しい研究者との協力関係を構築できた。 そして、ポランニー研究の最前線を切り開いているG.デールのポランニー研究について理解を深め、共同研究者との協力によって、翻訳を準備しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、【5.研究実績の概要】で述べた(3)を引き続き発展させるほか、ポランニー重要論文集や研究書の刊行など、国際的なポランニーの研究水準に日本の水準を引き上げるべく、とりわけ、ポランニー研究の知性史的アプローチに関するイギリスのG.デールの切り開いた研究成果についてとりあげ、研究を進めたいと考えている。また、ドイツのトマスベルガ―がポランニーの初の英語論文集を企画し、出版が遅れているが、そのなかに含まれているポランニーの民衆論について、意見交換しつつ、研究を進展させたいと考えている。 ポランニーの自由論(「複雑な社会における自由」)が新自由主義時代にもつ意義を、政治領域や国家の介入のない「自由な社会」の形成が可能であるとする、経済的自由主義(ハイエク、ミーゼス、フリードマン)の自由論と対比し、明確にする。また、アジアにおける研究に貢献するためにも、韓国におけるポランニー受容において、新自由主義の対抗軸としてのポランニーの理論的・思想的役割、新自由主義への実践的対抗軸のアイディアの宝庫としてのポランニーの制度論や民主主義論、社会的連帯経済の関連など、研究の方向性を多角的に発展させる。アジアにおけるポランニー研究の成果、ポランニー研究を学際的研究として拓いていくことの意義などを、総括する。とりわけ、二重運動と社会の自己防衛、擬制商品化と自己調整的市場、市場経済と民主主義のジレンマ、倫理的社会民主主義といったポランニーの核心的命題が、グローバル化が進む冷戦崩壊後の世界状況を捉えるための理論的枠組みとしていかに有効かを検証し、市場経済を再考するための枠組みとして再考していく。4年間にわたる本プロジェクトの軌跡、個人的な研究の総括とともに、国際的・学際的研究の協同の成果についても、総括し、資金に余裕があれば、日本でのポランニー関連データーベースを構築する。
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Causes of Carryover |
平成29年度は、M.メンデル ポランニー政治経済学研究所(モントリオール)所長や、ジョン・テイン カール・ポランニー研究所(アジア)所長を招いて実施した「カール・ポランニーと社会的連帯経済」(東京大学駒場キャンパス)や、国際会議の出張、研究協力者との共同研究、三人の研究者を招いてのポランニーと欧州関連シンポジウム(大阪市立大学)、公開研究会「カール・ポランニーと社会連帯経済」(國學院大学)での報告、研究補助の人件費など、研究計画を実行するにあたって費用が予想していた以上に多く要することとなったため、前倒し支払の請求を行うことになった。平成30年度にはポランニーとマルクス主義、ポランニーの経済思想史研究と人類学研究、知性史的アプローチでのポランニー研究などを実施する。ポランニー国際会議の開催が予定されていないため、海外出張の大きな出費は抑えられると思われる。優先順位の高い企画にしたがって、適宜対応したいと考える。
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