2018 Fiscal Year Research-status Report
国際経済秩序と平和に関するカール・ポランニーの制度主義的アプローチの展開
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16K03577
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
若森 みどり 大阪市立大学, 大学院経済学研究科, 教授 (20347264)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | カール・ポランニー / 経済思想史 / 新自由主義 / 社会的連帯経済 / 協同組合 / 労働問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、普通の人々の暮らしや雇用、地球環境、社会の安定に破壊的な影響を及ぼしているグローバル市場経済を批判する思想的・理論的な拠り所として世界的に注目されている、主著『大転換』(1944)を中心としたカール・ポランニーの経済思想の全体像を視野に入れながら、また、近年急速に発展しつつあるポランニー研究の国際的動向と連携しながら、特に今なおポランニー研究の未開拓の領域となっている「国際経済秩序と平和」に関する考え方とその分析方法の形成と発展を知的・思想的源泉にまで立ち入って明らかにする。そして、19世紀的市場社会の批判者としての彼の経済思想が、市場経済のグローバル化が進む冷戦崩壊後の世界状況を捉えるための理論的枠組みとしていかなる意義を有するのか、検討しようとするものである。 平成30年度は、ポランニーに関心を持つ多様な立場の研究者や実践家との知的交流の機会に恵まれ、ギャレス・デイルによる最新のポランニー伝記的研究を踏まえたハンガリー時代からの新しいポランニー像を報告し、ポランニー思想や研究の現代的意義について、研究を深めることができた。DIJ(ドイツ日本研究所)の国際会議では、日本における人手不足、低賃金、不安定雇用(とりわけ、公務員の非正規問題)、女性の生きづらさ(構造的・文化的な男女差別、労働環境、家事分担、法律的な空白部分)等、実証的な問題を欧州のケースと比較しながら考察する機会を得た。そして「カール・ポランニーと社会的連帯経済」、および「20世紀初頭の東欧・中欧における非ユダヤ的ユダヤ人の文脈のなかに、ポランニーとその同時代人を配置したような思想史地図の創造」といったテーマが拓かれてきて、実り多い年度となった。カナダ以外にも実践面(社会的連帯経済)では韓国、ドイツやハンガリーではアーカイブ研究の拠点が生まれつつあるポランニー研究は、新たな段階を迎えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の計画や方法の概要として、ポランニーの全体像との関連において「国際的経済秩序と平和」の問題を究明することを意図している本研究の計画の概要として、(1)内外の研究者と連携して意見を交換し、ポランニー研究の国際的な潮流にかかわっていく、(2)学際的、かつ実践的な側面から、ポランニー研究に関する共同研究の場を構築し、研究を進展・普及させていくことを、重視していた。平成29年度に引き続いて30年度も、これらの点に関しておおむね重要な成果が得られたと考える。 平成29年初頭に韓国で、拙著『カール・ポランニーの経済学入門――ポスト新自由主義時代の思想』(平凡社新書、2015年)が翻訳され、同年に開催された第14回カール・ポランニー国際会議(於ソウル市長舎)では、カール・ポランニーと協同組合運動、および社会的連帯経済との関連性が、重要テーマであることが確認された。そして、欧州のポランニー研究者が進めてきたポランニー論文集の刊行プロジェクトや翻訳の進捗状況について、意見交換を行った。30年度の本研究は、基本的に、この流れを引き継いで行ってきた。とりわけ、ポランニーの現代的意義をめぐっては、社会的連帯経済の研究者や活動家、労働問題に詳しい研究者との協力関係、共同研究に取り組んだ。欧州危機をめぐるポランニーの国際経済秩序を分析する視点と方法だけでなく、2010年以来、ポランニー研究の最前線を切り開いてきたギャレス・デイルのポランニー研究の成果について、論文を執筆した。デイルと連絡を取りながら、デイルによる初の『ポランニー伝』の日本版の刊行に取り組んできた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、W.シュトレイクやG.デイルなどによる現在の欧州複合危機の文脈のなかで国際経済秩序と平和を考察するポランニー思想を再評価する研究(平成28年度のケインズ学会での報告)を踏まえながら、主として、以下の点について検討していく。平成28年度に公刊された、デイルによる初のカール・ポランニーの詳細伝記的研究の翻訳プロジェクトを開始した平成29年度、そして30年度において、『大転換』最終章「複雑な社会における自由」やその他の諸論考の諸断片においてみられる「小さすぎる主権」、「無制限な主権」、「画一的な主権」などへの批判的論点への理解を深めている。平成31年度は、ハプスブルク帝国末期とその解体期に壮年期初頭までブダペストで過ごしたポランニーにとって決定的な影響を与えた「民族問題」、とりわけマジャル文化に同化した「非ユダヤ的ユダヤ人」としての彼の思想形成が、ポランニーの自由論の国際的側面(国際秩序と平和の構想)にどう関連しているか、という側面を明らかにする。この側面は、ポランニーの自由論の共同社会的側面(協同組合、社会的連帯経済、見通し問題)と表裏一体であるので、ポランニー受容において、新自由主義の対抗軸としてのポランニーの理論的・思想的役割、新自由主義への実践的対抗軸のアイディアの宝庫としてのポランニーの制度論や民主主義論、ポランニーと社会的連帯経済の関連など、内外の研究動向と連携させながら、多角的に発展させていく。
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Causes of Carryover |
平成30年度は、(1)国内でのDIJの国際会議や協同組合学会や経済学史学会の研究会に参加し、(2)ポランニーと社会的連帯経済、ポランニーの経済思想史研究と人類学研究や知性史的アプローチを中心にポランニー研究を実施したが、海外出張を行わずに必要に応じて海外の研究者とはメールで質疑応答などを行うことができた。さらには、(3)平成31年度にはニューヨークで開催されるSASEに研究協力者とともに参加することが認められ決定したために、また、研究補助の人件費を想定して、平成30年度については出費を抑える必要があった。
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