2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K03584
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Research Institution | Kanto Gakuin University |
Principal Investigator |
石井 穣 関東学院大学, 経済学部, 教授 (10587629)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ジョン・バートン / イギリス / マルサス / 穀物法 / 救貧法 / 植民論 / 土地再分割論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、19世紀初期のイギリスにて活動した経済学者、ジョン・バートン(John Barton 1789年生~1852年没)の経済学者としての全体像を明らかにすべく進められている。バートンは機械導入と労働需要について論じた1817年のパンフレットで知られるが、1820年以降の著作では、救貧法、植民、穀物法、金融恐慌など時論的・政策的諸問題について取り扱っている。バートンの著作を全体として眺めたとき、機械導入についての考察は1817年のパンフレットにおいて取り扱われるのみであり、経済学者としての全体像の再検討が求められている。本研究ではバートンの公表された著作に加え、手稿・手紙類の調査も行いつつ、検討を深めてきた。バートンは1820年以降、マルサス人口論を原理として評価しつつも、貧困救済にあたっての救貧法の役割を評価し、植民についても積極的に支持するなど、政策面でのマルサスとの相違が確認された。また穀物法を支持する点ではマルサスと同じだが、穀物価格の下落が農業および製造業労働者に及ぼす影響を基礎としている点で独自の考察を見せていた。平成30年度は、人々が将来を考えより思慮ある行動をとるための条件に関するバートンの考察を、1850年の論文にいたるまで跡づけた。バートンは窮乏こそが人々を無思慮にするとして、教区手当などの補助の重要性を指摘していたが、土地再分割による小農民的な所有の再建を考えるようになったことを示した。マルサス人口論は再分配的な改革としばしば対立すると考えられてきたため、マルサス的な道徳的抑制論(将来への思慮)と生産手段の再配分(土地再分割)とを接合しようとする試みは、興味深い論点を含んでいるいえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成30年度は本研究計画の最終年度にあたるが、本研究課題とは異なる研究や作業に時間を割かざるを得ない状況となり、進捗に遅れが生じた。研究の遂行は所期の半分程度にとどまったため、補助事業期間延長申請を行い、残された計画については平成31年度に実施することとなった。昨年度の進捗状況としては第一に、昨年度マルサス学会およびUK History of Economic Thought Societyで報告を行った、バートンの穀物法に関する論考が、「バートンの穀物法論とマルサス」として『マルサス学会雑誌』第27号において公表されたことが挙げられる(2018年度中の成果であるが、印刷の関係で公表自体は年度をまたぐこととなった)。第二に、オーストラリア経済学史学会(History of Economic Thought Society in Australia)第31回大会において、John Barton's view on Moral Restraint and Agriculturalismと題して報告を行った(Curtin University in Perth, 28 September 2018)ことが挙げられる。同報告では、窮乏と無思慮との関係、および農業主義について好意的なコメントがみられた一方で、同時代的なバートンの位置づけについてさらなる課題も見つかった。救貧法や穀物法への擁護、土地再分割への見通しは、バートンの思想的立場を示しているか、同時代的にどのような特徴づけが可能か検討する必要があることが明らかとなった。年度内に論文として公表したいところではあったが、間に合わなかったことは反省材料としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、これまでの研究成果をふまえ、バートンの経済学者としての全体像を明確化すべくる研究を進める。まず経済学史学会第83回大会(福岡大学 2019年6月1-2日)では「ジョン・バートンにおける道徳的抑制と農業主義」のタイトルで報告を行う。昨年度オーストラリア経済学史学会で行った報告と同じタイトルではあるが、同時代的な議論をふまえ、論考としての完成度を更に高めることを予定している。またマルサス学会第29回大会(沖縄国際大学 2019年6月29-30日)では「通貨価値変動に関するジョン・バートンの考察」で報告を行う。オーストラリア経済学史学会第32回大会(University of Sydney, 2-4 October 2019)では、John Barton on the effect of the change in the value of moneyのタイトルで報告を行う。通貨価値変動が雇用や所得に及ぼす影響について、1847年の金融恐慌に関するパンフレットを加え、古典派貨幣論との対比でバートンの特徴を考察する予定である。さらにイギリス経済学史学会(UK History of Economic Thought Society, Goldsmiths, University of London, 5-6 September 2019)では、John Barton's Critique of Classical Political Economyのタイトルで報告申し込みを行っている。バートンの保護貿易や土地再分割による独立農民再建への傾斜をふまえ、保守主義およびロマン主義の観点から、同時代的な位置づけを試みる。
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Causes of Carryover |
平成30年度にわたって、本研究課題に十分な時間を割くことができず、また研究の進捗に遅れが出たことから、補助金の一部を次年度に繰り越すこととなった。バートンの書簡の調査のため、セント・アンドリュース大学図書館への出張を検討していたが、上記の事情により、取りやめとなった。その残金が繰越金額(249,992円)となっている。なお平成30年度が本研究課題の最終年度であり、補助期間延長申請を行っていることから、繰り越した金額がそのまま使用金額となる。繰り越した金額は、当初の予定を変更し、経済学史学会第83回大会(福岡大学 2019年6月1-2日)、およびオーストラリア経済学史学会第32回大会(シドニー大学、2019年10月2-4日)で研究報告を行うために使用する計画である。前者は「ジョン・バートンの道徳的抑制論と農業主義」、後者は'John Barton on the effect of the change in the value of money'のタイトルで報告を行うことが受理されている。これらの研究報告を通じて、本研究課題の目的であった、バートンの経済学者としての全体像および同時代的な位置づけの明確化をはかる。
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