2017 Fiscal Year Research-status Report
社会的混乱による利子率のリスクプレミアム拡大が小国開放経済に与える影響とその対策
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16K03683
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
鈴木 智也 関西大学, 経済学部, 教授 (40411285)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 恒常的生産性ショック / 移民 / 頭脳流出 / 労働ウェッジ |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度の後半には、アパルトヘイトとその撤廃に伴う社会的混乱に着目して、南アフリカ共和国(以下、南ア)における景気循環を分析した。2017年度の冒頭、その成果を論文にまとめて査読付き学術誌へ投稿した。当論文の査読が戻ってきて大幅な改訂を求められたため、2017年度の大半は改訂に充てられた。改訂に伴い、利子率のショックよりも、技能労働者の流出の変動に伴う恒常的生産性ショックの影響に主眼を置くことになった。 南アのデータでモデルのパラメータを推定した結果、南アの労働市場は有意に非効率的であることが判明した。用いたモデルでは、労働市場の非効率性が利子率の増加関数と定式化されているので、利子率の変動が労働市場の非効率性を変動させることになる。推定されたモデルから労働市場の非効率性の時系列データを取り出して、南アからの移民流出の変動をそれに回帰したところ、労働市場の非効率性が移民流出に拍車をかけることが判明した。また、推定されたモデルから恒常的生産性ショックの時系列データを取り出して、それを移民流出の変動に回帰したところ、移民流出の増加が負の恒常的生産性ショックとなることが判明した。これらの結果から「労働市場における非効率性は移民のプッシュ・ファクターであり、それら移民が技能を持つ者が中心であるならば、国の労働効率性が減少して負の恒常的生産性ショックとなる」という仮説が支持された。 さらに、この仮説の支持が南アという一国だけの特殊事情ではないということを示すため、別の社会的混乱である内戦を経験しているスリランカを例にとって、類似の分析をした。その際、内戦が景気に与える影響を捉えられるようにモデルを少し改変した。当論文の執筆と改訂が2017年度の大半に行った研究のもう一つの柱となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上述のように、アパルトヘイトの南アに加えて、内戦のスリランカに関する論文も執筆した。分析手法と仮説は二本の論文で似通っているので一つの論文にまとめることも考えたが、アパルトヘイトと内戦では文脈がかなり異なり、スリランカの論文は単独でも長くなった。研究費の申請時には入っていなかった長い論文を一本追加で書いたため、余計な時間が必要となった。これが遅れの原因となってはいるが、2016年度の実績報告書において「今後の研究の推進方策」で触れているように、新たに浮上したテーマに関連したものである。その意味では遅れたとは完全には言い難い。また、2016年度と同様に、2017年度もこれら二本の論文が大手出版社の査読付き英文学術誌に掲載されることが決定したので、結果としては良かったといえよう。 なお、南アの論文は研究費申請時の計画では2017年度の後半に改訂版を投稿するまでを予定していたが、想定よりも速く査読が進んだので、2017年度中に掲載確定まで辿り着いた。このため、新年度に再改訂をする必要はなく、予定より進んでいる面もある。
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Strategy for Future Research Activity |
政府部門を入れて仮想実験をするという論文が、研究費の申請時点では2017年度中に投稿予定だったが、上記の理由で未完成である。まずはそれをいったん完成させて2018年度前半に査読付き学術誌へ投稿する。 具体的には、財政政策や金融政策のルールを式としてモデルに加える。そのモデルを推定した後、政策ルールに対応した式のパラメータを変更し、異なるルールのもとで景気の変動がどれくらい抑えられたであろうかをモデル上で仮想実験する。 研究費申請の時点ではこのテーマでも南アをサンプルとすることを想定していたが、サンプルの国は変更する可能性がある。理由の一つは以下の通りである。上述のように、新たな仮説において恒常的生産性ショックが重要な役割を果たす。恒常的生産性ショックを一時的ではあるがしつこい生産性ショックから区別するには、サンプル期間を長くとる必要がある。しかしながら、南アの場合、サンプルをある程度長くしようとすると、四半期データはなく、年次データになってしまう。景気変動においては、年次データよりも頻度の高い四半期データの方が望ましい。このようなデータ上の制限から南ア以外の国をサンプルとすることを考えている。
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