2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K03691
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Research Institution | Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization |
Principal Investigator |
寳劔 久俊 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 開発研究センターミクロ経済分析研究グループ, 研究員 (90450527)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 中国 / 農地貸借 / 契約デザイン |
Outline of Annual Research Achievements |
農地の売買や再配分が政策的に実施困難な途上国において、効率的な農地賃貸市場を発展させることは、土地利用の効率性を高める主要な政策の一つであり、同時に農村住民の農外就業を促進する効果も持つものである。農地の集団所有制が維持されてきた中国では、農村住民は農地使用権しか保有できず、しかも1980~90年代にかけては農地の割換えが頻繁に行われてきた。そのため、農地使用権の不安定性が農民による農地の肥沃度を高める投資を阻害したり、農地貸借を抑制したりする要因となってきた。 しかしながら1990年代末以降、中国でも農地に関する農民の権利保護が強化されてきたこと、そして専業農家や農業法人による大規模な農業経営や農業生産の高付加価値化が推進されてきたことを受け、浙江省や福建省など沿海地域を中心に農地流動化が急速に進展している。このような中国農村の現状を踏まえたうえで、本研究会の目的は、中国内陸部の農業先進地域を対象に農地賃貸における地代の需給構造を明らかにするとともに、農地貸借を促進するための賃貸契約のデザインのあり方を考察することにある。 3年研究会の初年度にあたる本研究の目的は、中国の農地流動化および新たな経営主体による農業経営に関する文献・調査研究の収集・分析を集中的に実施した。また四川省の農村部(成都市、南充市)において現地調査を行い、農地流動化の実情やその直面する課題、農地流動化や農業経営に関する政策動向や具体的な支援策に関する情報収集に努めた。さらに、農地流動化と農業経営に関するアンケート調査の内容や調査実施方法について、共同研究のカウンターパートである研究機関の研究者と詳細な協議を重ね、来年度以降の共同研究の進め方についての確認を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は当初の予定通り、中国の農地貸借に関する公表された資料と先行研究の整理、研究代表者が過去に実施した農地流動化の農家調査(2010年、浙江省)の再推計に取り組み、実証分析のための作業仮説をより明確にするとともに、研究協力者との間で調査設計や調査項目に関する詳細な協議を行った。 さらに調査予定地域の実態把握と現地協力者との研究協議のため、中国での現地調査を行い、地元政府部門(農業局、土地局など)へのヒアリングを通じて、調査予定地域の農業構造や農地貸借市場の特性を把握した。また、現地調査を通じて獲得した知見に基づき、アンケート調査の標本設計を協議するとともに、質問項目についても農地貸借の実態に即した形に修正する作業も実施した。 以上の理由から、(2)おおむね順調に進展している評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の協議内容に基づき、農地貸借に関する世帯主を対象としたアンケート調査を実施する。調査設計としては、3段階の層化抽出法を採用する。第1段階として、四川省成都市郊外に位置する郷鎮を農地貸借率(あるいは農家平均所得)でランキングし、「上の下」と「下の上」に位置する2つの郷鎮を無作為に抽出する。第2段階では各郷鎮から3つの行政村を無作為に抽出する。その際、農地流動化に対する地方政府の介入度合い(大規模貸借への補助金支出の有無、村による流動化への直接介入の有無など)も考慮する。そして第3段階では各行政村から村民名簿に基づき、70戸前後の世帯を無作為に抽出していく(2郷鎮×3行政村×70農家=420戸)。 ただし、農地借入を行う専業農家は一般に数が限られているため、村幹部から事前に情報収集し、一定面積以上の農地借入を行っている農家はすべて調査対象とする形でサンプリングを進める。また、各行政村での調査世帯数の割当数については、行政村の世帯総数を考慮してウェイト付けを行う。なお、抽出する行政村の数や調査世帯数については、現地協力者と協議の上、調整を加えていくが、調査対象農家の総数は400世帯を上回ることを目標とする。 さらにアンケート調査終了後は、調査委託先から提供された個票データをもとに、詳細なデータ・クリーニング作業と集計作業を実施する。個票データに不整合が見つかったり、集計値が実態と大きく乖離している場合には、委託先に調査原票の確認作業や調査地への問い合わせを依頼し、より信頼性の高いデータベースを構築する。このデータベースから基本統計量の推計やクロス表を作成し、データの特性を理解するとともに、計量モデルの実験的な推計と頑健性の確認作業を行う。
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Causes of Carryover |
2016年10月に行った現地調査について、アジア経済研究所の研究会経費を利用して一括した調査実施が可能となったことから、科研費分の旅費が節約可能となり、実際の使用額と使用計画との間に差額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度に節約できた費用については、次年度以降に実施予定の農家へのアンケート調査と中国出張の旅費として使用する予定である。中国では急速な経済発展の影響で人件費や交通費など、調査実施に必要な経費が大きく増加しており、対人民元の日本円の為替レートが下落していることも、アンケート調査費用と旅費の一層の上昇をもたらしている。したがって、前年度の予算節約分をそれらの調査関連費用の上昇分に充当していく。
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