2019 Fiscal Year Research-status Report
公的年金の給付が変動する場合にそれを補完する確定拠出年金の最適ポートフォリオ
Project/Area Number |
16K03744
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
臼杵 政治 名古屋市立大学, 大学院経済学研究科, 教授 (90539058)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | モンテカルロシミュレーション / 年金財政モデル / マクロ経済スライド / ターゲットデートファンド / ダイナミック戦略 / リスク回避度 / 確定拠出年金 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.2019年度の実績は、A.確率的なモデルの完成とそれを用いたシミュレーション結果、及びその示唆、B.TDF(ターゲットデートファンド)の特徴についての検証、である。 2.A.については2019年の年金財政検証データを利用して、経済3変数(実質賃金上昇率、物価上昇率、実質資産運用利回り)を確率的に変動する年金財政シミュレーションを完成させ、そのモデルを用いて・モデル所得代替率及び購買力指数からみた給付水準の変動の状況、・私的準備への示唆、を検証した。 2.その結果、・国民年金ではマクロ経済スライドが100年後まで終了しない割合が10%あるなど、スライド終了年及び給付水準が広範囲に分布し、・給付水準が経済3変数の影響を受け(確定拠出年金類似)、及びとりわけ2つの給付水準指標の内、購買力指数の変動を収益率とすれば、年金受給権が低リスク・低リターンオの資産であり、賃金上昇率、物価上昇率との相関が高いことがわかった。これらは公的年金(厚生年金保険)に上乗せされる私的年金(確定拠出型年金)の配分戦略を考察する土台となる。 3.B.については、TDFに関する3つの批判、すなわち・それと同様あるいはそれ以上の効用が達成できる資産配分戦略がある、・リスク回避度が高すぎる(リスク資産への配分が低い)、・運用成果に応じた資産配分の柔軟性に欠ける、という批判について検証した。 4.具体的には公的年金に私的年金を上乗せした場合の老後準備額の分布から効用を計算し、運用戦略の優劣を比較した。その結果、第1に私的年金だけの場合には固定配分など他の戦略に対するTDF の優位が認められる、第2に公私年金の準備資産を合算するとTDFの優位は薄らぎ、ある程度のリスク回避度までなら、リスク資産への配分を増やす戦略がTDF よりも高い効用をもたらす、ことなどを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2018年に健康上の理由(入院他)から、十分な研究時間をとれなかったこと。
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Strategy for Future Research Activity |
1.研究の核となる、2019年財政検証のデータを活用した公的年金の財政シミュレーションモデルはすでに完成している。そこでは、経済3変数(賃金上昇率・物価上昇率・ポートフォリオの運用利回り)以外の人口・労働要素については財政検証の数値をそのまま利用して、3変数を確率的に変動させ、モデル所得代替率と購買力指数(2019年=100とする)を指標として、パスごとに新規裁定年金の給付水準を探索している。 2.現在、このモデルを用いて、経済3変数(賃金上昇率、物価上昇率、資産運用利回り)の水準と変動(リスク)と今後10年~40年程度の厚生年金の給付水準及びその変動の関係を明らかにしつつある。 3.さらに厚生年金の給付水準に経済3変数が与える影響の度合いを定量化し、そのリスクを考慮した上で、厚生年金給付の資産としての特徴(リスク・リターン・相関)を検証し、厚生年金に私的年金(確定拠出年金)を上乗せする場合の最適なポートフォリオ(資産配分)を検証しつつある。 4.現時点ではリスクリターンとしては、国内債券あるいは短期資産並の低リスク・低リターン水準の資産であり、賃金上昇率・物価上昇率ともに正の相関をもつことが明らかになっている。そこで(実質)賃金上昇率のリスクを分散しながら、リスクをある程度許容するような配分が望ましいことになる。具体的には伝統的な4資産を加えた5資産を用いて、上述のリスク・リターンから最適な資産配分を考える。 5.なお、上記の最適ポートフォリオの考察においては、・モデル所得代替率50%という給付水準の下限を設けた場合、・賃金上昇率・物価上昇率の水準や大小関係が変化して例えば、物価上昇率と賃金上昇率が同一水準になった場合、についても考察し、それらの成果をまとめて研究を完成させたい。
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Causes of Carryover |
・研究計画の遅延により出張費などの出費が生じなかったため。
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