2017 Fiscal Year Research-status Report
19世紀の熱帯アジアにおける一次産品輸出経済と労働供給-人口増加と労働移動
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16K03787
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
脇村 孝平 大阪市立大学, 大学院経済学研究科, 教授 (30230931)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 熱帯アジア / 輸出向け一次産品生産 / 低賃金 / 移民 / 人口増加 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の研究成果(研究で明らかにした論点)は、「「南北問題」再考-経済格差のグローバル・ヒストリー」(『経済学雑誌』118巻3・4号、2018年3月)という論稿の中で示した。 すなわち、以下の二つの論点が研究成果と言える。第一は、19世紀における「熱帯の大分岐」とも言うべき現象の存在を明らかにしたことである。19世紀の東南アジアの一部地域(フィリピン・ルソン島、インドネシア・ジャワ島-今日の地域名で表記)では、年率1%をはるかに超えるような人口増加が起こったが、これは多分に一次産品の輸出ブームに刺激される形で出生率が上昇し起こった可能性が高い。他方、サブサハラ・アフリカでは19世紀を通して、人口変動は極めて停滞的であった。この人口停滞現象が何ゆえに起こったのかは現在のところ不明であるが、さらに解明を進める予定である。何れにしても、二つの熱帯地域の人口変動における対照から明らかになったことは、19世紀東南アジアにおける「外延的発展(extensive growth)」-一人当たりの所得増加はないが、人口増加により経済の規模が大きくなったこと-の存在であり、そのことの社会経済史的な意味は非常に重要であると言える。 第二は、20世紀後半における、更なる「熱帯の大分岐」現象の存在の指摘である。東南アジア(インドネシア、マレーシア、ベトナム、タイなど)では、1870年代以降、持続的な経済成長(一人当たりの)が起こったが、こうした持続的な経済成長の背後には、1970年代以降の「緑の革命」による食糧生産部門における生産性の上昇、そしてそのことを前提とした1980年代半ば以降の、「輸出志向工業化」の進展がある。他方、サブサハラ・アフリカでは、こうした持続的な経済成長はほとんど起こっておらず、その原因として、東南アジアに見られたような食糧生産部門の生産性の上昇がなかったことを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画調書で掲げた研究課題のうち、19世紀東南アジアにおける人口増加の諸側面については、かなりの部分を明らかにすることが既にできている。他方、東南アジアの一次産品生産部門における労働の実態(賃金など)、さらにこれらの地域に移民労働を送り出していた南インド(現在のタミルナードゥ)の食糧生産の実態(生産性など)については、未だ史資料収集と分析の段階にある。 平成29年度の年度末(3月)に、イギリスの国立公文書館、およびマレーシアの国立公文書館に史資料調査に行ったが、上記の未達成の研究課題を明らかにすることが目的であった。平成30年度は、この研究課題の解明に専念する。
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Strategy for Future Research Activity |
第87回社会経済史学会全国大会(5月26日・27日開催)で、パネル・ディスカッション「熱帯と一次産品輸出-国際分業・経済発展・低開発」を企画しているが、そのオーガナイザーとして、本研究でこれまでに明らかにした点を基に、新たな問題提起をしつつ、三人の報告者、二人のコメンテーターとともに、本研究の研究課題の解明に資するような機会にしたいと考えている。さらに、7月31日にアメリカ・ボストンで、「世界経済史会議ボストン大会2018年(World Economic History Congress, Boston 2018)」で企画されている「近代世界の形成過程における熱帯」というセッションに参加し、「19世紀の熱帯アジアにおける一次産品生産部門への労働供給:「要素交易条件」論・再考(Labour Supply to the Sector Producing Primary Goods in Tropical Asia during the 19th Century: Revisiting ‘Factoral Terms of Trade’ Thesis)」という報告をする予定である。 研究成果の執筆予定としては、上記「世界経済史会議」での報告を基にした英語原稿の執筆、「現在までの達成度」のところで述べた残された研究課題に関する日本語原稿の執筆などを予定している。
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Causes of Carryover |
【理由および使用計画】 次年度(平成30年度)、英文校閲の必要が見込まれたため、平成29年度分の約100,000円分を繰越しした。
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