2017 Fiscal Year Research-status Report
中国消費者の購買行動における不確実性解消プロセスの研究
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16K03927
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
古川 一郎 一橋大学, 大学院商学研究科, 教授 (60209161)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | マーケティングリサーチ / 中国人 / 言説行為の矛盾 / 面子 / 不確実性下の意思決定プロセス / 社会規範の影響 / 虚偽データ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、中国消費者の購買行動における不確実性解消プロセスを明らかにすることである。私達はリスクを回避する時に、他人の動向を無視し個々人で独立して判断するよりも、むしろ、他者の動向、他者との対話、社会の風潮といった他者との関わりあいの中で思考し判断するのが一般的である。昨年度は他者との関わりあいに焦点を当て、中国人と日本人、台湾人の対人類型の違いの特徴について実証的に検討した。 この実証分析から明らかになったことは、対人類型の境界の引き方に中国人、台湾人、そして日本人には大きな違いがあるということである。例えば、同じ“友人”という範疇でも、きわめて親しい友人もいれば、顔見知り程度の友人もいる。この同じ“友人”というカテゴリーを細分化したとき、相手に対する好意や言動の違いは、中国人が最も顕著であり、日本人が最も少ないことがわかった。これは、目に見えない人間関係の境界により、相手に対する態度、言説、行為に違いがあり、中国人は極めて親しい人以外には、本音を隠す可能性が十分にあることを意味する。 従来の統計的な調査においては、被験者の大半が口裏を合わせるように虚偽のデータを答えることは想定していない。ランダムに虚偽データがあっても、これらは誤差項として処理されるので、サンプル数を増やせば問題は回避できると考えられてきた。しかし、相手により言うことを変える人たちの場合は、状況により多くの人々が同じ傾向でうそをつくことが明らかになったのである。本年度は、このような不確実性回避プロセスに対する実証分析の結果に基づき、これまで十分に検討されてこなかったデータの性質について、ここ10年間の中国人の言説と行為に関する、特に面子に対するこれまでの研究成果を踏まえ考察を行った。その成果は『マーケティングリサーチの罠:嫌いだけど買う人たちの言説と行為』(仮題)として、2018年夏に刊行予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、書籍の執筆に集中した。原稿はほぼ完成しており、現在、出版社である有斐閣と校正を含め最終的な調整を行っている。予定では、2017年度中に出版できると考えていたが、やや予定より進捗状況が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は、書籍の刊行に合わせて、中国人と日常的にビジネスを行い、彼らとの交渉において意思決定の中心的な役割を果たしているビジネスパーソンを対象に、定性的なインデプス・インタビューを行いたいと考えている。 中国人の“面子意識”は、対人関係により大きく異なり、基本的にはきわめて親しい人以外は信用しないことがこれまでの研究から実証的に明らかになっているが、ビジネスの一線で意思決定を行っている人たちにインタビューすることで、この点を確認すると同時に、日本人としてどのような工夫をしているかといった点について、定性的なデータを収集し検討したい。日本人同士であれば、著名企業の肩書といったものが信頼できるかどうかを判断する材料になるが、中国人の場合は肩書などほとんど意味をなさないというのが、検証したい仮説である。 このようなデータを追加することで、日本人と対比したときの中国人の不確実性下の意思決定プロセスの特徴がはっきりとしてくると考える。中国におけるマーケティングを考える上で大きな示唆が得られるのではないかと思われる。
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Causes of Carryover |
2017年度は、2016年度新たに収集したデータのより詳細な分析、ならびにここ10年にわたる実証研究を振り返り整理するために、書籍の執筆に集中した。このため、新たなデータ収集と分析の時間を十分にとることが出来なかった。 書籍の主たるテーマは、マーケティングリサーチにおけるフェイクデータ(嫌いだといっているものを買う)に関するものであり、主としてその原因についてアンケート調査などにより収集されたデータに基づいた実証的な検討を行っている。 2018年度は、書籍の刊行に合わせて、フェイクデータに対する対応策を考えるために、中国との事業において意思決定をしているビジネスパーソンを対象にした調査を行う予定である。また、研究成果の発表なども行っていく予定である。このための、調査およびデータ分析費用、研究成果を公表するための論文投稿費用、学会出張費用に充てる。
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