2016 Fiscal Year Research-status Report
19世紀におけるアメリカ・イギリス鉄道会社の複会計システムに関する比較会計史研究
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16K03975
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
春日部 光紀 北海道大学, 経済学研究科, 准教授 (10336414)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 複会計システム / 資本勘定 / 鉄道会社 / 公益事業会社 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,19世紀のアメリカおよびイギリス鉄道会社を中心とした複会計システムを多面的に分析し,その歴史的展開過程を実証的に検討するものである。 今年度は,アメリカ鉄道会社の年次報告書を詳細に検討した。具体的には,年次報告書をある程度の規模で所蔵している図書館・国立公文書館等に対して,現地で資料調査を実施した。近年は貸借対照表と損益計算書が主要な財務表となっているが,複会計システムでは,資本勘定,収益勘定,一般貸借対照表という三つの財務表が中心となる(資本勘定と一般貸借対照表を結合すると,現在の貸借対照表となる)。この形式上の特徴を手がかりとして網羅的に史料調査を行っていく必要があるため,今後も引き続き調査を行っていく。 またアメリカ鉄道会社の複会計システムに関する先行文献は,きわめて少ない状況にあり,全体像の把握は充分ではない。財務諸表の形式上の変化を分析するだけでなく,その変化を要請した経営的・経済的背景も併せて検討し,アメリカ複会計システムの歴史的展開をより明確にするため,経営史や経済史の文献,および当時の投資雑誌の検討も行っている。財務諸表の形式に関してある程度判明している場合は,コピー依頼等を通じて迅速な史料の入手に努めた。 今年度に検討を行ったNew York, Ontario and Western 鉄道会社の財務諸表は,1868年イギリス鉄道規制法の第1スケジュールで要求された15種類の計算書に対応しており,その勘定体系を踏襲するものであった。ただし一般貸借対照表は,鉄道規制法と異なり通常の形式で作成されており,資本勘定残高が振り替えられていなかった。したがって複会計の形式を踏襲しながらも,資本勘定は勘定体系から独立していたといえる。同社がこのような会計政策を採用した背景には,ロンドンやアムステルダムを中心とした外国人投資家の影響があったと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度(平成28年度)は,アメリカ鉄道会社を中心に史料調査を開始した。所蔵確認を済ませている図書館に対して数回の資料調査を行い,まずは複会計システムを採用している鉄道会社を特定していくという作業を行った。対象企業は数百社に及ぶので,今後とも継続的な調査が必要となる。 年度当初には予想し得ない学内業務が発生したため,予定していた回数の調査を実施できなかったが,1回の調査日数を増やすことである程度補うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は,引き続きアメリカ鉄道会社の年次報告書を調査するとともに,イギリス鉄道会社の史料調査を開始する。イギリスの場合は,1868年鉄道規制法によって複会計システムの採用を強制したため,史料の特定は比較的容易であると考えている。1868年鉄道規制法やそれ以前の法令も詳細に検討し,会計実務と法制度との関連を検討していく。また比較会計史の観点から,アメリカ鉄道会社とイギリス鉄道会社の複会計システムの異同を分析していく。 本研究は主に鉄道会社を対象としているが,補助金申請後の史料調査過程でイギリスのガス会社において複会計システムが採用されていたことを突き止めた。これまでの通説では,同システムはイギリス運河会社で生成し,イギリス鉄道会社で確立したとされる。具体的には、London and Birmingham 鉄道で作成された1838年下期の財務諸表が,最初の事例とされている。ガス会社の事例はこの通説を覆すものであり,会計史研究への多大な貢献をなすものと考えられる。そこで,39th European Accounting Association Annual Congressおよび14th World Congress of Accounting Historiansの2つの国際会議において報告を行った。今後は,可能な範囲でガス会社の事例も取り入れ,厚みのある研究にしていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
年度当初に予期し得なかった学内業務が負担となり,予定していた調査回数を実施できなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
学内業務の幾つかが終了したため,次年度は繰り越し分を含めて調査を行うつもりである。また現時点で海外学会での報告も決定しているため,
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Research Products
(3 results)