2017 Fiscal Year Research-status Report
19世紀におけるアメリカ・イギリス鉄道会社の複会計システムに関する比較会計史研究
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16K03975
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
春日部 光紀 北海道大学, 経済学研究院, 准教授 (10336414)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 複会計システム / 資本勘定 / 収益勘定 / 一般貸借対照表 / 鉄道会社 / 運河会社 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,前年度に引き続き,アメリカ鉄道会社の年次報告書の資料収集・分析を行うとともに,イギリス鉄道会社の年次報告書の資料収集・分析を開始した。イギリス鉄道会社に関しては,ナショナル・アーカイブでの現地調査を実施した。アメリカ鉄道会社は国内に相応の資料が所蔵されているが,複会計システムの採用は任意であったため,同システムの形式上の特徴を手がかりとして網羅的に調査をしていく。 今年度に検討を行ったDetroit and Milwaukee 鉄道会社の財務諸表は,1858に開示されたものであり,イギリスで複会計システムを最初に法制化した1868年鉄道規制法より10年も早い事例であった。財務諸表の形式を,1868年鉄道規制法のモデルとなったLondon and North Western鉄道会社のものと比較した。会計技術移転の経路は,D&M鉄道会社の社長であったC. J. Brydgesがイギリス人であり,1843年にLondon and South-Western Railway Companyに入社後10年間勤務していたことから,イギリス鉄道会計に造詣が深かったと考えられる。彼は会計士ではないが,鉄道会社関連の人物を介して会計技術移転が生じていたと考えられる。本事例は,次年度に論文として発表する。 平成29年度は,日本会計研究学会北海道部会第92回大会,The Ninth Accounting History International Conference,40th European Accounting Association Annual Congress 2017等の学会で研究報告を行った。またサセックス大学のAccounting Research Seminarsで報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は,アメリカ鉄道会社に加えて,イギリス鉄道会社の史料調査・分析を開始した。所蔵確認を済ませている図書館に対して数回の資料調査を行った。アメリカ鉄道会社は対象企業が数百社に及ぶので,今後とも継続的な調査が必要となる。イギリス鉄道会社に関しては,今年度,イギリスのナショナル・アーカイブでの調査を行った。ここには1868年鉄道規制法以前の資料が保管されており,今後も継続的に調査を行う。 イギリスの場合,複会計システムは, 1868年鉄道規制法によって鉄道会社に強制適用されたこともあり,資料の所在も明らかとなっているので,比較的スムーズに調査が進んでいる。ただしイギリス鉄道会社の資料も膨大であるため,引き続き調査を行っていく必要がある。またイギリスの複会計システムに関しては,これまでの通説とは異なる資料も発見されたため,こちらの調査も行い,分析を行っている。 本研究は主に鉄道会社を対象としているが,イギリスのガス会社において複会計システムが採用されていたことを発見している。これまでの通説では,同システムはイギリス運河会社で生成し,イギリス鉄道会社で確立したとされる。これまでの通説とは大きく異なる結論を提示できる可能性があるため,可能な範囲でガス会社の事例も取り入れて検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は,引き続きアメリカおよびイギリス鉄道会社の史料調査を継続する。今年度にすでに一部開始しているが,アメリカ鉄道会社間およびイギリス鉄道会社との比較を行い,その特徴を明らかにするとともに,複会計システムの変容に影響を与えた要因分析を実施していく予定である。 今年度の研究で一部明らかとなったが,これまで外部監査人によるアメリカ鉄道会社の監査は,1888 年のNew York, Ontario & Western 鉄道の事例を嚆矢とし,19 世紀末葉に流行したとされていた。しかしイギリス人会計士が顕著な活動をしていない19世紀中葉には,鉄道会社関連の人物を介して会計技術移転が生じたという事例があった。今後,人に着目した検討も行っていく予定である。 またアメリカ鉄道会社の資料は国内に相応の資料が所蔵されているが,19世紀中葉の資料ということで,資料劣化により閲覧不能となっている場合がある。したがって国外の図書館や公文書館への訪問調査・コピー依頼等を効果的に併用していく。また二次史料である新聞雑誌(Railway Age, Commercial and Financial Chronicle, Moody’s Manual, Railway Gazette, Accountant等)の調査も開始する。 得られた研究成果は論文として公表していくとともに,いくつかの学会での報告を予定している。
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Causes of Carryover |
当初予定していた資料調査の予定回数を下回ったため。
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Research Products
(5 results)