2018 Fiscal Year Research-status Report
アジア・太平洋戦争をめぐる不平等の計量歴史社会学的研究
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16K04042
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
渡邊 勉 関西学院大学, 社会学部, 教授 (30261564)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アジア・太平洋戦争 / 兵役 / 引揚 / 職業経歴 / 地域移動 / 生活水準 |
Outline of Annual Research Achievements |
主に4つの研究をおこなった。 第一に、SSM調査データを利用した戦争の不平等の研究である。1955年のSSM調査データを利用し、戦中、終戦直後、1955年の3時点の階層帰属意識から主観的な生活水準の変化が社会階層によってどのように異なるのかについて分析した。 第二に、職業移動と経歴調査データを利用した地域移動の研究である。まず地域間格差の変化に着目した分析をおこない、戦争の影響を明らかにした。次に職業間格差の変化に着目した分析をおこない、戦前から終戦後の混乱期にかけて職業間格差が縮小し、その後格差が拡大していったことが明らかとなった。さらに、兵役と引揚に焦点をあて、兵役経験者、引揚経験者の戦後の地域移動の特徴を明らかにした。兵役経験は終戦後生活の不安定性を高めたが、1950年代以降定住、安定していく。それに対して引揚者は終戦後の社会的不安定性が、1960年代以降も継続していることが明らかとなった。 第三に、SSM調査データを利用した職業経歴の不平等の研究である。1955年から2015年までの7回分のSSM調査を利用することで、1920年代から2010年代までの日本の労働市場の特徴を明らかにした。職歴の不平等は、まず戦前から戦後の社会、制度の大きな変化の中で、平等化が進んだ。その後終身雇用制度の浸透と共に、さらに平等化が進んだが、1970年代後半以降の入職者は、不安定な職歴が増え、不平等が進行した。 第四に、在外事実調査票のデータ化をおこなった。引揚者に対して厚生省が1951年におこなった悉皆調査である引揚者在外事実調査の大阪府の分について、約1500票を大阪府公文書館から複写し、デジタルデータにする作業をおこなった。ただ2018年度だけではデータ化は完了しておらず、まだ分析には至っていない。2019年度も引き続きデータ化の作業をおこなう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アジア・太平洋戦争が日本に与えた影響、特に社会的不平等の実態について、SSM調査、職業移動と経歴調査のデータを分析することにより、明らかになってきた。人々の生活水準、職業経歴、地域移動など、多様な側面から不平等の実態を明らかにしている。 さらに在外事実調査票のデータ化も着々と進んでいる。ただ、まだ在外事実調査については、分析が進んでおらず、令和元年度に分析する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、在外事実調査票の入力、データ化を作業を進める。さらに、コーディング、クリーニングなどをすすめ、分析をおこなう。 第二に、京浜工業地帯調査、静岡貧困調査のデータ分析をおこなうことで、引揚者の分析、貧困家庭(特に夫を戦争で亡くした母子家庭)の戦後の生活の分析を進めることで、SSM調査、職業移動と経歴調査では明らかにできなかった、戦争によって多大な影響を受けた人々の実態を明らかにする。 第三に、複数の調査データ分析の結果を総合的に検討することで、アジア・太平洋戦争が日本社会に与えた影響を考察する。 第四に、戦争研究者との共同研究、交流をすすめる中で、計量分析の可能性と限界について検討し、これまでの歴史学、歴史社会学等の膨大な知見との接合を試みる。
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Causes of Carryover |
理由は、在外事実調査の資料調査および、データ化が予定通りに進んでおらず、そのための費用に未使用額が生じたためである。 使用計画としては、資料調査を進め、調査票のデータ化のために使用する予定である。
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