2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K04051
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
下夷 美幸 東北大学, 文学研究科, 教授 (50277894)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 離婚 / 当事者支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、離婚過程において子どもの監護をめぐる紛争が増加し、また、紛争自体も高葛藤化している。このような状況を背景に、家族法研究者や家族問題に携わる実務家によって、離婚紛争における当事者支援システムの議論がはじまっている。いうまでもなく、実効性のある当事者支援システムを構築するには、支援の受け手となる離婚当事者側の意識や実態に関する実証的な研究が不可欠である。しかし、現在のところ、そのような先行研究は存在しない。 そこで本研究では、離婚当事者を対象に社会調査を実施し、離婚過程および離婚紛争の実態、当事者支援に関する意識と経験等について検討する。そのうえで、日本社会の実情に即した、離婚紛争における当事者支援システムのあり方を探究し、その実現のための政策的課題を提示することを目的としている。 この目的に即して、研究初年度にあたる本年度は家庭裁判所に焦点をあてて研究を行った。日本の離婚制度は、協議離婚を主とするが、協議ができない、あるいは協議が整わない夫婦は、家庭裁判所で調停を受けなければならない仕組みとなっている。よって、家庭裁判所制度は離婚紛争過程における当事者支援の公的システムと位置付けられる。 まず、家庭裁判所の創設過程、創設から現在までの経緯について、立法関係資料や司法統計等を基に分析した。その結果、家庭裁判所の調停過程を当事者支援としてとらえた場合、支援の対象は主に夫婦に限られるという問題が明らかとなった。つまり、両親の離婚に直面する子どもへの支援という課題が浮かび上がってきたのである。このような研究の経過から、離婚ケースの子どもに直接かかわる専門職である、家庭裁判所調査官に着目する必要性を認識した。そこで、家庭裁判所のなかでも家庭裁判所調査官に力点を置き、調査官制度の歴史と現状について分析した結果、裁判所システムにおける家庭裁判所調査官制度の特異性が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
離婚紛争における当事者支援の公的システムとして、家庭裁判所制度を位置づけ、その歴史と現状について研究をすすめた。その結果、家庭裁判所の離婚調停過程を当事者支援としてとらえた場合、支援の対象が主に夫婦に限られるという問題が明らかとなり、両親の離婚に直面する子どもに対する支援という課題が浮かび上がってきた。 このような研究の経過から、離婚ケースの子どもに直接かかわる専門職である、家庭裁判所調査官に着目する必要性を認識するに至った。そこで、家庭裁判所のなかでも家庭裁判所調査官に力点を置き、調査官制度の歴史と現状について研究を展開させることにした。こうして、独自の視点を獲得し、研究の方向性を進展させることができたが、家庭裁判所調査官の資料として公刊されているものは乏しく、資料収集の困難に直面した。 しかしその後、最高裁判所図書室の資料を閲覧することが可能となった。それにより、家庭裁判所調査官の専門誌や研究会誌から貴重な資料を得ることができ、研究の困難を打開することができた。 以上の通り、研究を進めるなかで、研究の方向性を学術的により意義のある方向に進展させることができたが、その過程を経たことで、進捗状況としてみれば、やや遅れる結果となった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の研究の結果、離婚紛争における当事者支援の研究を進めるにあたり、両親の離婚に直面する子どもを対象とした支援、という視点の重要性が明らかとなった。本研究では、離婚当事者を対象に社会調査を実施し、離婚過程および離婚紛争の実態、当事者支援に関する意識と経験等について検討するが、今後の研究においては、とくに両親の離婚を経験する子どもに着目して進めていく。そのような観点から、子ども期に焦点をあてた実証的研究を行い、日本社会の実情に即した、子どもの視点からの、離婚紛争における当事者支援システムのあり方を探究し、その実現のための政策的課題を提示することを目的とする。 そこで、平成29年度は両親の離婚経験を有する成人を対象に、聴き取り調査を実施する予定である。このような調査対象者の獲得には難しい点があるが、すでにステップファミリー(子どもを連れた再婚により形成される家族)研究において、親の離婚・再婚を経験した成人子に対する聴き取り調査の先行研究が行われている。これらの研究の調査手法を参考に、予算の範囲で最大限の成果が得られるよう調査計画を入念に検討し、実施する。 調査内容としては、両親の離婚紛争の経過、当時の父子関係および母子関係、離婚紛争過程で受けた支援(公的機関、親族、親族以外の第三者等)についての経験、子どもの視点からみた当事者支援のあり方等を中心に検討する予定である。 なお、聴き取り調査による研究においては、相手方の同意等を得たうえで実施する。また、事前に所属先の調査・実験倫理委員会の承認を得て実施する。
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