2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K04095
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
稲葉 昭英 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (30213119)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 貧困 / 定位家族 / 子ども / ライフコース / ケアラー / 世代的再生産 / 母子世帯 / ひとり親 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は研究の初年度であり、貧困・低所得層の家族形成、貧困・低所得の世代的再生産に関する内外の文献のレビューを中心に研究を進めた。まずは、申請者が編者となった『日本の家族 1999-2009』(東京大学出版会、2016年)の批判的レビューを研究協力者たちと進めることから開始し、ついで欧米の論文を皆で講読した。 その成果はすでに発表しているが、定位家族の貧困が子どものライフコースに及ぼす影響は日本と欧米では違いがあり、どうやら日本は女子により負の効果が生じるのに対して、欧米ではこの効果は男子に大きいようだ。どちらも貧困はひとり親世帯、とくに母子世帯と関連するが、日本は親を助けるために子どもが家事やきょうだいの世話を担い、このために学習機会が制約されるのに対して、欧米では親子の不和による子どもの早期離家が学校からのドロップアウトと関連しているようだ。 日本のパターンは子どもが女子の場合にとられやすく、皮肉なことに親子関係がよいほど貧困の影響が子に及ぶことになる。逆に欧米のパターンは親子関係(典型的には母の恋人と子どもとの関係)が不和であるほど、子どもの早期離家を媒介として貧困が影響を及ぼす。このパターンは子どもが男子の場合に生起しやすいようだ。 このように考えてみると、家族の基本的なあり方が定位家族の貧困が子どもに及ぼす影響を規定しているといえそうである。日本のこうしたパターンは、子どもがヤングケアラーとして家庭内の家事・育児を担うことを経由して不利が生じるという性格のものであり、ヤングケアラー仮説とでも名付けるべきものである。一方で、貧困・低所得世帯では子どもが高校生くらいの時期になると、ケアのみならず、稼得役割の一部を期待されるようになる場合もあり、この問題も今後検討していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度はレビューを行うという目標であり、とりあえず現時点でこの課題はこなせているといえる。また、アメリカ社会学会年次大会に参加することができ、アメリカにおけるこの分野の最先端の情報も入手することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年は3年計画の2年目に相当するため、データ分析を中心として研究を進めていきたい。この分野に関心をもつ研究者が参集するようになっており、多くの研究協力者とともに研究を進めていく予定である。 また、9月の日本家族社会学会大会では本研究の出発点である「日本の家族 1999-2009」の書評セッションが開かれるため、研究協力者とともに参加する(申請者はこの本の編者であるためリプライで登壇する予定)。
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Causes of Carryover |
当該年度はアメリカ社会学会大会に参加するために旅費と宿泊費を計上していたが、他の研究費(基盤研究(A)、代表大谷信介・関西学院大学教授)によりこの旅費と宿泊費を支払っていただいたため、本助成金からの支出を行う必要がなくなった。(申請者は自分の研究のために出張予定であったが、大谷代表のプロジェクトも研究分担者のメンバ―全員がアメリカ社会学会大会に参加することになり、そちらでの支出を優先した。) 次年度使用額となった16万強はほぼこの金額に相当する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究協力者が予想よりも増加したが、本年度は9月の日本家族社会学会大会(京都大学)などでセッションを予定しているため、研究協力者たちの旅費・宿泊費、大会参加費などをここから支出したいと考えている。
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Research Products
(6 results)