2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K04095
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
稲葉 昭英 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (30213119)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 低所得 / 階層 / 世代的再生産 / 家族構造 / ライフコース / 子ども / 貧困 / ヤングケアラー |
Outline of Annual Research Achievements |
貧困低所得の世代的再生産について、欧米の先行研究を中心にレビューを行う一方で、既存のデータ(内閣府による「親と子の生活意識に関する調査」2011年)の分析を行った。分析は家族構造(二人親、母子世帯、父子世帯の差異)と子どもの成績・教育アスピレーションに関する分析で、傾向スコア分析を用いて観察されない異質性を統制したうえで、家族構造による差異がみられるかどうかを確認した。母子世帯については、ほぼ所得の効果で説明され、固有の効果は示されなかったが、父子世帯については固有の効果が示された。この成果はまもなく論文として報告予定である。 また、貧困低所得の世代的な再生産をもたらすメカニズムのひとつとして小学生・中学生・高校生が家事や育児などを過剰に負担することに注目し(こうした子どもたちをヤングケアラーとよぶ)、NHKによる生活時間調査などの集計結果からその実態を探索的に検討した。同調査では少数ながら中学生についての測定結果が公表されており、土曜日の育児時間(おそらくは弟や妹の世話)の平均値が11時間という結果が示されている。この結果はこれまでほとんど注目されてこなかったが、以上の観点からは大きな意味をもつものと考えられる。中学生・高校生およびその両親を対象としたNHK「中学生・高校生の生活と意識に関する調査」(2012年)では中学生・高校生の家事参加が測定されているため、データを取り寄せて分析を試みたが、時間ではなく参加の有無で測定されるものであったため、二人親世帯でも子どもの参加が高いという結果になり、分析は困難であった。 また、近年の貧困・低所得層の家族問題としては親と同居する中高年期無配偶者の増加の問題を取り上げ、成果を『都市社会研究』(せたがや自治研究所)に論文として発表した。現在は顕在化していない高齢の未婚男性の問題が今後顕在化してくることを指摘した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目なのでレビューと分析を中心に行い、ほぼ計画通り進んでいる。また、研究協力者の大学院生たちも着実にそれぞれの研究を進めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
2018年度は最終年度になるため、研究を総括すると同時に2019年度以降の研究につなげたい。貧困・低所得世帯に育つ子どもたちの学業不振、教育アスピレーションの低さはさまざまな場面で問題にされるようになっているが、そのメカニズムは十分明らかにされているわけではない。このメカニズムを明らかにしなければ、有効な支援策を講じることはできない。 近年の被生活保護世帯の子どもたちの研究では、ワーカーが子どもたちに制度によって何が可能になるか(進学や通塾などの可能性)を伝えるべきで、そのことで後ろ向きな意識を改善できるのではないかという指摘がある。ただ、一方で子どもにはこれらの情報を出すべきではないとする立場も存在するし、現場ではそうした対応を取られることも多かったようだ。どのような対応が望ましいかというこの問題は重要であり、子どもたちの意思決定過程を検討することで制度のありかたについて考えていきたい。 また、周知のように被生活保護世帯の少なからぬ部分はひとり親世帯であり、親が疾患を抱えているケースも少なくない。そうした世帯では、子どもたちが親の代わりに家事や弟妹の世話を担当することになり、このことが子どもたちの様々な機会を制約しているように思われる。こうした子どもたちをヤングケアラーとよぶ。このような状況下でまず必要とされることは家事支援ではないかと思われる。こうしたことが制度的に可能か、あるいはこうした対応を試みている自治体や国家があるのかどうか、この点も今後明らかにしていきたい。
|
Causes of Carryover |
最大の理由は、2017年度に当初予定していた海外出張(アメリカ社会学会参加)を取りやめたためである。この理由は、申請者が学内のある役務に急遽つくことになり、予定していた期間中に役務上の仕事が求められたためである。なお、役務の詳細は所属大学における慣例に従い、ここに記述することはできない。 次年度は最終年度であるため、当初の予算規模が小さかった。可能であれば海外出張を検討したいと考えている。
|
Research Products
(8 results)