2017 Fiscal Year Research-status Report
障害女性をめぐる差別構造への「交差性」概念を用いたアプローチ
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16K04114
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Research Institution | Aichi University |
Principal Investigator |
土屋 葉 愛知大学, 文学部, 准教授 (60339538)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
時岡 新 金城学院大学, 国際情報学部, 准教授 (30387592)
渡辺 克典 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 准教授 (60509181)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 障害 / 女性 / 生きづらさ / 交差性 / 差別 / 生活史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「障害」と「女性」という異なるポジショナリティの上に置かれている、障害女性を取り囲む差別構造を明らかにすることである。 平成29年度は、前年度にひきつづき、生活史法を用いて障害のある女性への聴きとり調査を行った。身体障害のある女性については、中部地区のみならず関西地区においてもネットワークを通じてアプローチした。また、発達障害および知的障害のある女性の支援者に対してパイロット調査を行うと同時に、調査方法について示唆を得た。 平成29年度中期には研究会を開催した。まず「交差性(intersectionality)」概念について検討した。調査研究の課題についての認識を共有し、前年度および今年度前期に行った調査から得られた「生きづらさ」に関する具体的な事例から、知見の共有化を図った。とりわけ医療・介助場面、恋愛・結婚・生殖をめぐる問題、精神障害のある女性の経験について、これまで得られたインタビューデータから検討を加えた。 具体的には、医療および介助場面において性別と障害、その他の要素がどのように「複合」しているのかを考察し、情報の不足、アクセシブルではない施設や機器、医師の偏見などがあることを明らかにした。また、恋愛・結婚・生殖の領域は必ずしも障害者差別解消法における合理的配慮の範疇にはおさまるものではないが、障害女性の生きづらさを解明する上では重要であることを指摘した。精神障害のある女性の経験については、身体症状からくる困難、女性役割に関する規範意識、雇用に結びつきづらい現状について述べた。これらに加え、障害をもった/発症した年齢や地域性、居住形態等の要素が、女性たちの生きづらさに影響を与えることを示唆した。以上について、2つの学会において報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
パイロット調査は全障害種別で終了している。インタビュー調査の実施件数は平成29年度の目標値に届いておらず、障害種別によっては十分なアプローチが出来ているとはいえないものの、ネットワークに基礎づけられたスノーボールサンプリングを用いて調査対象地域を広げるなど、おおむね順調に進んでいるといえる。 今後は不足している領域の対象者へのアプローチを行っていくと共に、追加調査として、これまで対象としてきた障害女性への追加調査を行うことにより、さらにその体験を深く聴きとる方向性についても検討を行う。これらにより、障害女性をめぐる差別構造を明らかにすることをめざす。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度前期は、インタビュー調査から得られたデータについての検討会を開催する。分析のための示唆を得ることを目的とし、対象者のプライバシーには十分配慮した上で、障害のある女性をオブザーバーとして招いた研究会とする。 一方で、障害のある女性への差別事例について検討を深めるために、関係者を招聘した研究会を開催する。障害女性の問題を広く周知するために、公開研究会とする予定である。 また、前年度にひきつづき、インタビュー調査を継続していく。昨年度のネットワークを利用し、関西のみならず関東での調査も検討する。対象地域・障害種別・年齢層等の偏りを考慮した上で、対象者の選定を行っていく。また後期には、必要に応じて平成28~29年度に聴きとりを行った対象者に対するフォローアップ調査を行う。 並行して、障害女性をめぐる問題について情報を提供し社会全体での議論を深めていくために、得られた知見を整理し学会や研究会で報告を行っていく。さらに昨年度の成果をまとめ、学会誌・商業誌への投稿を行う。
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Causes of Carryover |
理由は2つある。まず、平成29年度に実施する予定であった研究会が、平成30年度4月に持ち越されたことである。また2つめにインタビュー調査について、やや進行が遅れていること、これに付随してデータの文字起こしにかかる費用にタイムラグが生じていることである。 以上の理由により、平成30年度には助成金を、研究会開催に伴う講師旅費および会場費等の諸費用、学会参加旅費、さらにインタビュー調査に関する費用(謝金、文字起こし謝金、旅費)に使用する予定である。
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Research Products
(21 results)